ライフ

【書評】杉浦日向子さんの作品を再編成 死後も読み継がれる愉快で胸にしみいる一冊

『お江戸暮らし』著・杉浦日向子

『お江戸暮らし』(杉浦日向子さん著)

【書評】『お江戸暮らし』/杉浦日向子・著/ちくま文庫/924円
【評者】嵐山光三郎(作家)

 杉浦日向子は漫画と江戸風俗エッセイを書いた多才の人である。稲垣史生に内弟子として時代考証を学んだ江戸研究家で、「二世紀半にわたって内乱も対外戦もない泰平を維持した時代」にのめりこんだ江戸通。ただし、忠臣蔵の赤穂浪士が吉良家主従四十名を殺傷したことが許せず、23歳のとき、「ガロ」に「吉良供養」(上・下)を漫画作品として示した。幻の傑作が第一章に出てくる。

「私、忠臣蔵はわかりたくありませんという話」(エッセイ)もある。「女のスケベー」「男色」「曲屁」。曲屁はカツヤクキン(括約筋)を使って外気を吸いこみ、肛門を引き締めて音階をつくって演奏する。肛門による口笛だからキタナがることはありません。

「お江戸漫画館の恋」は春画を漫画化してエロいが、ラストシーンはロマンティックで映画的手法。「江戸の道楽」「江戸・遊里の粋と野暮」「色町の夢は煙か」「刺青」「私はスケベなんだろうかという話」など、ズケズケと書くところがよろしい。

 日向子さんは東京都港区芝で呉服商の娘として生まれ、幼時から歌舞伎、寄席、大相撲に親しんできた麗人で、カバーにある肖像写真は松竹映画の女優クラスだ。私も対談で会ったが、「ゴキブリにチーズの餌を与えて飼いならしている」という話だった。NHK「コメディーお江戸でござる」で解説者として出演していたから、覚えている人もいるでしょう。

 漫画とエッセイという二刀を使った日向子さんは、毎日新聞の書評委員となり、江戸関連本を数多く制作したが2005年7月に逝去された。享年47。著作はちくま文庫で14巻のシリーズ本として刊行され、いずれも松田哲夫(ちくま元専務)編。編者の杉浦日向子への「友情と敬愛」がある。

 この「お江戸暮らし」は2022年5月刊の最新版で、解説も松田氏が書いている。47歳で死んでもその遺志をつぐ編集者がいれば、作品は再編成されて末永く読者に届く。愉快で胸にしみいる一冊だ。

※週刊ポスト2022年8月19・26日号

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン