仕事って、すごく我慢してる人がいるからこそ成り立つ
4編中、唯一の書き下ろしが、「老(ロウ)は害(ガイ)で若(ジャク)も輩(ヤカラ)」。作家綿矢りさと綿矢をインタビューしたライターが、インタビュー原稿の修正をめぐってぶつかり、担当編集者も巻き込んでメールのやりとりが過激化していく。
「この仕事を始めて20年たった記念、ではないですけど(笑い)、いろんな人とやりとりするなかで経験も蓄積されて。3人とも、自分がつくったものを他人に直されるのが嫌なんですよね。仕事に真剣で、あきらめないから、こうなっていくんですけど、仕事って、すごく我慢してる人がいるからこそ成り立ってる。その仕事にかかわる人全員が好き放題したら大変なことになるな、と思って書いた小説です」
強引に自分の意見を通そうとする作家の名前をあえて自分と同じにし、プロフィール(「現時点では芥川賞最年少作家といえばこの私」)もそのまま使っている。「綿矢りさ」のパブリックイメージを粉砕することもためらわない、すがすがしくも圧巻の書きっぷりだ。
「小説家を書くなら自分のことは自分が一番わかっているから設定がつくりやすいことと、架空の名前にして他にモデルがいるんじゃないかと思われたらややこしいな、という理由でこうしたんですけど、後半になると、さすがに書いてて悲しくなってきました(笑い)。本のカバーに私の写真を大きく使いたいと言われたんですけど、『やめてください』と断りました」
4編とも、コロナ禍のただ中で書かれた。
「善悪やモラルって本当に人それぞれだな、っていうのを、コロナはあぶり出しましたよね。どこでも必ずマスクをつける人もいれば、あまり気にしない人、ノーマスクの人もいます。感染対策がゆるい人は『なんで心配にならへんのやろ』と不思議でしたし、そういう人をすごい責める人のことも『犯罪でもないのに』と同じぐらい不思議でした。
書いている最中は、コロナ禍もそろそろ終わるかな、と思ったけど、本を出した今も続いているし、いつまで続くか考えると憂鬱になります。今回の本は、コロナ禍のストレスを発散したくて書いた話でもありますね。いったん笑いにしたい気持ちがあったのかもしれません」