脈々と続く歌謡曲の歴史の継承を掲げる五木は、自身も一昨年に「五木ひろし」のデビュー50周年を迎えた。だが、半世紀もの歴史とは裏腹に、本人の抱負はなんともあっさりしている。
「振り返ると、これ以上ない幸せな歌の人生を歩めたと思います。この50年で『五木ひろし』としての歌謡史をやり遂げた。もう終わった、というのが正直な気持ちです。その意味で、紅白歌合戦も50回をもって一区切りとさせていただきました。先へ進んでいくため、五木ひろしの51年、52年……としての人生は特別に意識をしていません」
芸能生活は長く、実は五木ひろしの前にも「松山まさる」「一条英一」「三谷謙」の芸名で活動をしてきた。
「歌手として今年で58年目。再来年は60周年で、いまはその節目へ向けて、人生のすべてをかけています。現役で声が出る元気なうちに60周年を迎えられることができたら、こんなに素晴らしいことはないですから」
現在74才。スリムな体形を保ち、ステージではマイクを手に涼しい表情で片足立ちをキープ。体幹が鍛えられた若々しい肉体を誇っている。
「あれ、みんなびっくりするんです(笑い)。60代はキックボクシングを習ったり、腹筋や腕立てを200回励んだりしていましたが、最近は無理せずにストレッチぐらい。この年になると、鍛えるよりも規則正しく生活することが大事だと感じます。起床は毎朝5時半か6時。早朝にワンちゃんの散歩をするのが日課です」
私生活で最大の癒しと目を細める宝物が、ペットのトイプードルの親子・チャチャとムームー。その愛らしい姿をプリントした靴下もあり、散歩に履いていくこともあるそう。そんな五木に歌手としての宝物を訊いた。
「ここまで歩いてこられたことです。ご当地ソングもたくさん歌ってきましたが、以前、長野県を訪れた折に地元の自慢は島崎藤村と五木ひろしだと言われたんです。ぼく自身の出身は福井県ですが、『千曲川』を歌った五木ひろしも長野県の自慢だと。そうやって歌が結んでくれた“心のふるさと”が日本中にあります。ありがたいことです」
これからは、歌謡曲への恩返しをすることに全力を捧げていきたい。もうこれ以上、歌手としての“お宝”を求める気持ちはありません──そう言いきってまっすぐに前を見つめる五木の表情は、とても清々しかった。
◆『五木ひろし劇場』10月20~30日まで大阪新歌舞伎座で開幕。詳細はホームページ参照。
撮影/中村功 取材・文/渡部美也
※女性セブン2022年9月8日号