野際陽子演じた「姑」は“妙技”
野際さんの演じてきた数々の姑役は、まさに“妙技”だった。元々はアナウンサーであり、語学も堪能とエリートだった野際さん。聡明さが演技にもあらわれていたように思う。『ずっとあなたが好きだった』(TBS系・1992年)で演じた、桂田悦子役は息子・冬彦さんとの相思相愛ぶりが話題になり、社会現象になったほど。求められていた怪役を見事に演技で返していた。
他にも『誰にも言えない』(1993年)、『スウィート・ホーム』(1994年)、『長男の嫁』(すべてTBS系・1994年)など数々のドラマで姑役を披露。視聴者を時には共感の嵐に、時には笑いの渦に巻き込んだものだ。まだ婚期を迫られていなかった私も「結婚したらこんないじめが待っているのか……」と、しみじみしていたものである。
多数演じられた姑役でも、今回の鈴木保奈美さんの演技に近いなあと思ったのが『ダブル・キッチン』(TBS系・1993年)で、山口智子さんとの嫁姑バトルを見せた、花岡真知子役。戦いの場はいつも二世帯住宅。結婚後も仕事を続ける都(山口)には、毎夜小言を言い、ストレス解消にはいつも鼓を打っていた真知子。自分の趣味とばかりに(絶対にいらない)木製の暖簾を設置したり、掃き掃除をしたゴミをポストに入れる様子も面白かった。ただ孫の面倒もよく見て、都が発熱したときは夜通し看病をする一幕も。
すべて『ちむどんどん』の重子と同じく、愛情あっての行為なのだ。昭和を生きて、家庭に尽くすことだけが最良とされていた時代だったのだから、重子も真知子も良かれと思ってのことだった。ひょっとすると自分も姑からされた体験を継承しているだけなのかもしれない。それに二人とも嫁が誰であっても事あるごとに反対をして、いびり、家訓を嫁に伝授するはず……。
そんな重子の姑ぶりは心温まる懐かしいメニューを暢子に食べさせてもらった……という、些細なきっかけでストップしている。ここで終わらず、鈴木保奈美さんには凛とした姑姿を引き続きお願いしたい。野際さん亡き後、誰も継承されることはないのだろうかと思っていたポジションに、鈴木さんが鎮座となるのか否か。
【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、企画、編集、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。著書に、30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 -つながる機能が増えた世の中の人間関係について-』(WAVE出版)がある。静岡県浜松市出身。Twitter:@hisano_k