終戦後、門司に上陸した人たちが喉を潤したところから「帰り水」と呼ばれる門司港駅の水飲み場。1914年(大3年)に駅舎が完成した当時から設置され、今でも現役で使用されている(時事通信フォト)

終戦後、門司に上陸した人たちが喉を潤したところから「帰り水」と呼ばれる門司港駅の水飲み場。1914年(大3年)に駅舎が完成した当時から設置され、今でも現役で使用されている(時事通信フォト)

 門司港駅は、1891年に門司駅として誕生。1914年に場所を移転し、同時に西洋風の駅舎へと姿を変えた。JR九州や北九州市は、移転に際してリニューアルされた西洋風の駅舎を創建時の姿としている。

 歳月とともに門司港駅の駅舎は老朽化しているので、改修もされた。改修時に正面の車寄せに庇が付けられたり、駅舎正面の大時計が後から追加されたりしている。

 創建時と重要文化財に指定されたときの姿は異なる。そうした事情もあって、創建時の姿へと復原するには文化庁からの許可を得なければならなかった。JR九州は有識者による検討委員会を発足させて、復原に関する議論を重ねた。

「復原にあたって、創建当初の姿へと戻すことを基本方針にしました。しかし、大時計は創建時にはありません。市民に親しまれているといった理由もあり、残すことになりました」(同)

 2019年に門司港駅の復原は完了。駅舎が装いを新たにしたことで、門司港地区の魅力は高まることが期待された。そうした観光への期待もあり、JR九州は駅舎を復原する段階から周辺の観光地化や活性化についても関係各所と調整を重ねている。門司港一帯はレトロな建物が多く残っていることもあり、遠方からも観光客が訪れる。

 今年は鉄道開業から150年。その間、多くの駅舎が生まれは消えていった。東京駅や門司港駅のように、時代を経ても長らく愛される駅舎は少ない。

 貴重な駅舎を保存することや復原することは、歴史と文化を守る一手法ではある。しかし、私たちが想像する以上に、その作業には並々ならぬ時間と労力を要する。

 駅舎は美術品・工芸品ではないから、使用する人たちの利便性や実用性を優先するべきとの意見もあるだろう。古い駅舎に比べ、新しい駅舎の方が利用者にとって快適で使いやすいことは間違いない。それらを踏まえつつも、文化財という歴史遺産を復原・保存するために、その裏で多くの人が汗をかいていることも忘れてはいけない。

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