左肩の筋力を鍛え、身体の使い方を学ぶために野球の「バット」を使うのが“横峯流”
「不動裕理だね」
この日、良郎監督が練習場に持ち込んだのはバットやグローブ、テニスラケット。いきなりグローブを手に50ヤードほど離れて立ち、移動しながら手を伸ばして捕球できる範囲にアプローチするよう指示した。
「これまで弥勒ちゃんは“マシーン”と呼ばれ、ウエッジ7本を使い分け、1ヤード刻みに何度でも同じ距離を打つような練習をしてきた。しかし、ゴルフで重要なのは人間力。コースでは同じ場所から打つことはなく、いろんな状況の中で1本のウエッジのロフトと振り幅を調整しながらピンに寄せていくゲーム。これからは飛ばすためのスイングも必要になるが、スイング自体はすでに正確さがあるので、付加価値をつけるだけ。もっと人間らしく打ちなさいとアドバイスしている」(良郎監督)
横峯流の奇抜な練習が何時間も続き、それを淡々とこなす弥勒ちゃん。良郎監督のことはどう思っているのか。
「良郎監督はもっと厳しいのかと思ったけど、すごく優しい。ゴルフがこんなに楽しいと思ったことはないです」
良郎監督も「すごく素直で、めちゃくちゃ頭がいい。ゴルフは頭が良くないとダメ。天才が練習するのが一番怖い。かつての不動裕理だね。さくらと比べて? 比較にすらならんよ(笑)」と現役で活躍する娘を超えるプロになると断言した。
弥勒ちゃんは2年後には中学生となり、主催者推薦などでプロの試合に出場できるようになる。様々な最年少記録更新への期待がかかるが、将来の目標を聞いたところ、「伝説的なゴルファーになること。良郎監督と一緒に成し遂げたい」とより大きな夢を語った。
天才少女が栄冠を掴む日は、予想以上に近いかもしれない。
撮影/藤岡雅樹 取材・文/鵜飼克郎 撮影協力/GOLF5カントリーサニーフィールド
※週刊ポスト2022年9月30日号