ライフ

手術後の尿漏れを改善する「脂肪由来幹細胞治療」が治験で好成績

「脂肪由来幹細胞治療」はどう行う?(イラスト/いかわやすとし)

「脂肪由来幹細胞治療」はどう行う?(イラスト/いかわやすとし)

 前立腺がん術後に尿道括約筋が障害され、尿漏れが起こることがある。大半の症状は1年以内に消失するが、1年経過しても約10%で尿漏れが残る。重症例には人工尿道括約筋埋め込み手術があるが、軽症から中等症には有効な治療法がなく、パッドで対処している。男性尿漏れに対する幹細胞の再生治療に使う遠心分離機が、今年2月に薬事承認された。臨床での使用許可に向け準備中だ。

 膀胱内の尿は尿道括約筋が尿道を締め付けているので漏れないが、何らかの原因で括約筋が障害されると、くしゃみだけでも尿が漏れる。これが腹圧性尿失禁だ。男性の場合、前立腺がんや前立腺肥大症の手術が原因で尿漏れが起きてしまう。それも無意識のうちに漏れるため、常に尿漏れパッドが手放せない。

 2012年、重症の尿漏れに人工尿道括約筋埋め込み手術が保険収載された。ただ人工物を体内に留置するために侵襲が大きく、さらに感染症や器具の不具合などで約25%が取り出しや再埋入になる。

 独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院(名古屋市)の後藤百万院長に聞いた。

「名古屋大学で脂肪組織から採取した幹細胞を用いた腎不全の研究をしていたのですが、なかなか難しかったのです。そこで100万人と推定される男性の術後尿漏れに対する再生医療の研究も並行して取り組んでいたところ、基礎研究、動物実験を経て安全性が確認できたので14例に臨床研究を実施、11例で症状が改善する結果を得られました」

 その脂肪由来幹細胞治療とは患者本人の腹部から皮下脂肪を約250グラム採取し、酵素処理した後に特殊な遠心分離機を使い、幹細胞を含む再生細胞が入った液体に分離する。採取した5cc程度の液体には1000万個以上の再生細胞が入っており、その一部を尿道から内視鏡で尿道括約筋に注入する。残りを脂肪組織と混ぜて粘膜下層に注入すると、開いたままだった尿道が閉じ、時間の経過と共に注入した細胞の平滑筋への分化や血流増加によって括約筋が改善するのだ。

 通常の再生医療では患者や他者から採取した幹細胞を体外で培養して増やし、再び患者へ戻す。しかし、この治療は患者の脂肪組織から分離した幹細胞を、すぐに患者に戻すのが特徴だ。脂肪採取から幹細胞分離、注入までが約3時間。内視鏡で括約筋に注入する時間も5~10分で済む。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン