『呪怨』シリーズを世に送り出した映画監督の清水崇さんは、Jホラーがその後に与えた影響を次のように語る。
「『リング』(1998年・中田秀夫監督)のようにビデオテープという身近なアイテムを使った設定などが、恐怖をよりリアルに感じさせ、各国で人気を博しました。その後、どこにでもありそうな家で起こる恐怖をテーマにした作品は、韓国や台湾の作品でも見られるようになりました。歴史や風土、生活習慣がアジア全体で似ているからスムーズに受け入れられたのかもしれません」(清水さん・以下同)
欧米作品と一線を画したJホラーの手法が衝撃をもって迎え入れられ、アジア作品にも広がっていったのだ。
「欧米の作品は怪物や殺人鬼が襲ってくる直接的表現が主流なのに対し、Jホラーを含むアジア圏では、間接的に“ぴちゃ”とか“ガタ”など効果音でそこに“何かいる”と感じさせたり、あえてボンヤリさせ、見せきらない気配でジリジリと追い詰めていく表現が多く見受けられます」
韓国には“恨”という言葉があり、それがベースになっている作品が人気を得ているという。
ちなみに、“恨”とは恨みだけではなく、悲しみや怒り、悔しさが入り交じった複雑な感情を表しており、2019年に世界的に大ヒットし、アカデミー賞作品賞を獲得した『パラサイト 半地下の家族』も“恨”がベースとなっている。
「日本も韓国と似たような題材があるものの、韓国の方がもう少し恐怖の表現が複雑で、社会風刺を織り交ぜながら家族愛や人間ドラマを深く描いている。なぜなら韓国は、国を挙げて映画製作をサポートしているので、若手が育ちやすい。優秀な俳優やスタッフも見過ごされず、素晴らしい映画が次々と登場している印象です」
【プロフィール】
映画監督・清水崇さん/代表作に『呪怨』シリーズ(1999〜2006年)、映画版『呪怨2』(2003年)、『犬鳴村』(2020年)などヒットを連打している日本ホラー界の巨匠。
ホラー映画取締役さん/ツイッターで世界中のホラー映画情報を取り締まり、紹介する会社の代表取締役(@torishimaru)。フォロワー数は2万4000人以上。
ホラープロデューサー・夜住アンナさん/お化け屋敷の枠を飛び越え、独自の感性で“美しく怖いホラー”の世界を創り出すアーティスト兼イベントクリエーター。
社会心理学者・山根一郎さん/椙山女学園大学教授。「恐怖の現象学的心理学」が研究対象だが、怖がりで、ホラー映画は苦手だという。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2022年10月13日号