タンさんは8月の韓国訪問時のスナップを見せてくれた

タンさんとおじが8月に韓国を訪問した際の写真

 今年8月上旬、タンさんは裁判の第8回口頭弁論ために韓国に渡航していた。事件を明らかにしようと全力を注いでいるタンさんは、4度目となる今回の韓国渡航でどのような動きをし、どんなことを感じたのか。私はそれを確認したかった。

 突然の訪問にもかかわらず、タンさんは笑顔で私を迎えいれてくれた。

「私は、嘘は言っておらず、真実を伝えているだけです。しかし、今回の口頭弁論でも、元兵士や韓国政府が事件を認めていないことが改めてわかりました。私はいつも良い結果を望んでいます」と、タンさんは冷静に語った。

(写真/村山康文)

「私は真実を伝えているだけ」(クアンナム省、2022年9月)

 今回の渡韓には、フォンニ村の事件現場から約100メートル離れた場所で韓国軍の暴虐ぶりを目撃したというタンさんのおじ、グエン・ドゥック・チョイさん(82)も同行した。事件当時27歳で、南ベトナムの農村開発団員だったチョイさん(のちに南ベトナム共和国軍民兵隊)は、「無線機を通じて韓国軍がフォンニ村の住民らを殺しているとの知らせを聞き、現場の近くに向かった。そして、望遠鏡で韓国軍人が住民らを殺害している姿を見た」と、証人尋問で述べていた(『ハンギョレ新聞』、2022年8月10日付)。

 私は、韓国に同行したチョイさんにも話が聞きたいと、タンさんに伝えた。タンさんは快諾し、チョイさんの家まで案内してくれた。

 チョイさんは、フォンニ村で起きた事件について、次のように話した。

「……事件前、この村でひとりの韓国兵が殺されました。本来、(韓国軍と敵対していた)ベトコンは山のほうで身を潜めているのですが、韓国兵が殺されると、『村人がベトコンを匿っているんじゃないか』と疑いを持ち、怒り狂ったんです。そして、次々と村人を殺し、村を焼き払っていきました。この村は事件当時、南側の勢力圏でした。韓国軍とは味方であるにもかかわらず、このような事件が起きてしまった。悲しすぎます」

(写真/村山康文)

「韓国軍とは味方であるにもかかわらず、事件が起きた」(クアンナム省、2022年9月)

 ベトナム戦時下で起きた民間人殺害事件に関する私の取材は、今年で14年目になる。今まで「味方側を殺害した」という表現を、インターネットなどで確認したことはあったが、事件を知る関係者の証言を聞いたのは、これが初めてのことだった。そしてチョイさんは、苦笑しながらこう付け加えた。

「当時、韓国軍兵士は臆病になっていたのではないでしょうか。ゲリラであるベトコンは、その韓国軍兵士の性格を利用して、南ベトナム側勢力の内部分裂を図ろうとしたのかもしれません……」

 今回のベトナムは、私にとって通算52回目の渡航になった。今までの渡航では、街や人びとの大きな変化を感じることは少なかった。しかし、今回のベトナムは違った。やはり2年半の時間は大きかった。観るもの、聞くもの、感じるもの、そのすべてが私の心を揺さぶった。新型コロナウイルス感染症による友人の死。フォンニ村の事件を見ていたというチョイさんの証言。

 チョイさんの証言内容で新たに知った事実を思うと、事件に関する取材もまだ道半ばだと実感する。私は、これからもベトナムを追い続ける。

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