劣悪な環境で多数の犬が飼育されていたとされる施設。2021年10月。長野県松本市(時事通信フォト)
「募金もそうですが、虐待であっても警察や行政はよほどのことがないと動きません。注意か警告程度ですね。松本の件もそうでしたが、あれも野放しのまま事件化してしまったわけで、保護犬が本来の保護とはかけ離れた環境で再び道具とされる事案もあります」
松本の件、とは拙ルポ『虐待が日常だったペット絶望工場 1000頭の犬はどこに消えたか』でも取り上げた長野県松本市におけるブリーダーの事件であり、実際に逮捕者も出た。
「そういう犬たちの中には募金やクラファンなどに利用されてしまう子もいます」
駅前には謎の団体から個人まで、多くが犬を連れて募金活動をおこなっている。一般市民とすれば使用許可を取っていようと団体名を名乗ろうとその本当の実態はわからない状態、ましてそこに一日中じっとしている犬たちには何の罪もない。その犬たちの「かわいい」「かわいそう」が金になる。
しつこく書くが、すべての犬を連れた街頭募金がそうではない。各法人、NPO、任意団体、個人の大多数は動物のために誠実な活動をしているであろう。しかしそうした動物愛護のふりをした連中がいることもまた事実である。近年ではクラウドファンディングでも飼い主の生活のためではないか、と疑われるような犬や猫を使った「乞い」行為が問題視されている。過去には募金口座の活動資金を使い込んだまま失踪した犬猫里親団体(任意団体)の代表もいた。街頭募金に至っては現金なので金融機関などの第三者記録も残らない。募金詐欺そのものを罰する法律もなく、旧来の詐欺罪や軽犯罪法のこじき罪、迷惑防止条例のたかり行為の禁止などで対処するしかない。つまり、警察はよほどのことがなければ動けない。大半は注意が関の山である。詐欺は本当に立件の難しい事案なのだが、やはり新たな法整備はクラファン、投げ銭(スパチャ)、欲しい物リストに対すると同様に必要だろう。
また「かわいい」「かわいそう」とお金を入れる前にまずは募金活動をしている当人に確認して欲しい。まともな団体なら必ずきちんとした説明ができるし、ましてや許可もなく街頭で募金を呼びかけるとか、犬をあからさまにかわいそうな状態のままに、あわれみを乞うような行為はしない。その場でスマホの検索機能などを使って団体名をチェックするのもありだろう。それでも絶対ではないが、あわれみや善行のつもりでやみくもに募金するよりましである。
駅前に犬が募金箱とともにいる。ありふれた街の風景だが、このありふれた日常の陰に、炎天下、極寒の中で道具として使われ、劣悪な生活を強いられながらも、一部の団体や個人の生活や遊興という金儲けに利用され続けている犬たちがいる。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。内外の社会問題の他、『ペットショップの「お年玉セール」に違和感 命が叩き売られていいのか』『虐待が日常だったペット絶望工場 1000頭の犬はどこに消えたか』『ペットショップの「コロナ特需」と売れ残った動物たちの末路』(すべてNEWSポストセブン)など、生命倫理に関するルポルタージュも手掛ける。