私と俺が各々の今に縛られ、動けずにいた地点から、ある半月の夜までの距離はほんの1歩。自分のことを誰のせいにもせず、自分で決めることにした2人は、実はある過去の景色を心の支えとして共有しており、本書は意外にも謎や仕掛けが入念に巡らされた、企み深い小説だったりもする。
「よかった~、そう言ってもらえると嬉しいです。とにかく私はこの2人に今すぐにでも走ってほしかった。その時の頼りになる景色が、たぶん私の中にも無意識のうちにあるんでしょうね。長屋の4畳半2間に3世代が住み、貧乏でも明るかった昭和な感じとか。
老いは暗く、マイナスでしかない。でもだからこそ正視して、何とかプラスにする方法を考えようよって。その方が老いは素晴らしいなんてウソをつくより、ずっといいと思うんです」
事実は事実と認めた上で、「でも、だからこそ」と、その先に挑む姿勢が、小説的牽引力にも繋がった感のある本書。きっとこの物語は老若や性別をも超え、誰かの背中を確実に押す。満月だろうと半月だろうと、人は走りたい時に走っていいのだ。
【プロフィール】
野沢直子(のざわ・なおこ)/1963年東京・人形町生まれ。高校在学中から素人参加番組に出演。その後、叔父・野沢那智氏の仲介で吉本興業に所属し、1983年にデビュー。ダウンタウンは同期。『夢で逢えたら』『笑っていいとも!』『クイズ世界はSHOW byショーバイ!!』等で活躍するが、1991年に活動を休止し単身渡米。米国人ギタリストと結婚し、一男二女に恵まれる。現在サンフランシスコ在住。毎夏「出稼ぎ」と称して2か月ほど日本に滞在。著書は他に『笑うお葬式』等。158cm、B型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2022年10月28日号