(写真/GettyImages)

ハラハラドキドキが好きな人は逃げ遅れやすい(写真/GettyImages)

 火事でも逃げ遅れる人が出る。消防庁によると、住宅火災の発生件数は総出火件数の約30%だが、死者は7割を占める。さらに、65才以上の高齢者が犠牲となる割合が年々上昇しており、2007年までは50%台だったが、2017年以降はなんと70%を超えている。

 電気器具での死亡例も高齢者が多く、「電気こたつをつけたまま外出、ショートにより発火。帰宅してから火災に気づいて消火しようとしたが、手間どっている間に逃げ遅れて死亡」などといったケースも報告されている。新潟県の上岡美子さん(65才・仮名)が声を潜めて言う。

「近所に同世代の女性が住んでいました。毎朝、マラソンをするなど活発だったのが印象的で。5年前、そのお宅が火事になったんです。奥さんや旦那さん、2人の子供たちが家から出てきて、家族全員無事でほっとしたのも束の間。消防車を呼んで安心したのか、あろうことか、奥さんが通帳や印鑑を取りに自宅に戻ってしまったんです。

 そうしたら、くすぶっていた煙が、みるみる炎に変わってしまって……。奥さんは消防隊員に助けられましたが、大やけどを負ってしまいました」

 ほかにも消火活動をして逃げ遅れる、逃げ遅れた人を助けて命を落とすという事例も報告されている。

「正常性バイアス」と「同調性バイアス」

 ある地下鉄のホームで車両が燃えている。すると、対向ホームに列車が入線してきた。その列車の乗客は目の前で車両が燃えているにもかかわらず、なぜか座ったまま。2003年、韓国で起きた「大邱地下鉄放火事件」での出来事だ。

 死者192人、148人が負傷するという大惨事だが、災害に遭った人の心理状態を鮮明にした。地下鉄指令センター側の不手際も大きかったとはいえ、車内の防犯カメラには危険を過小評価する乗客の様子が記録されていた。どうして逃げないのか──東京女子大学名誉教授(災害・リスク心理学)の広瀬弘忠さんが解説する。

「人間は、急激な変化に対しては驚いたり危険だと感じたりするが、じわじわと迫る危険に対しては適応機能が働いて、気づかなかったり“なんともない”と過小評価してしまう。これを『正常性バイアス』と呼びます」

 広瀬さんは、被験者が1人でいる部屋に軽い刺激臭のある白煙をゆっくりと吹き込む実験を行った。すると、7割の人は煙が充満しても室内にとどまった。中には「体にいい煙だと思った」などとポジティブな解釈をした人もいた。

 別の実験だとこうだ。部屋にいる10人のうち1人だけに実験だとは知らせず、非常ベルや消防車のサイレン音を鳴らしつつ室内に煙を入れた。こちらも、ほかの9人が動かなければ、実験だと知らない1人は逃げようとしなかった。

「集団の中では、つい他人と同じ行動を取ろうとする心理『同調性バイアス』が働く。“みんなでいれば怖くない”と考えがちです。大邱の地下鉄での行動は、これによるものだと考えられる。周囲の様子をうかがっていると避難が遅れる原因になるが、率先して避難する人がいれば、より多くの人の避難につながるのも同調性バイアスです」(広瀬さん・以下同)

 では、どんな人が逃げ遅れやすいのだろうか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
『あんぱん』“豪ちゃん”役の細田佳央太(写真提供/NHK)
『あんぱん』“豪ちゃん”役・細田佳央太が明かす河合優実への絶対的な信頼 「蘭子さんには前を向いて自分の幸せを第一にしてほしい。豪もきっとそう思ったはず」
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン