筆者がそのネットショップを確認したのは、さらにそれから数ヶ月後だったと思われる。そのときは、先述したような格安の「ミラブル」や、怪しげな健康グッズなどが販売されるようになっていた。ところが、筆者が訪ねるまで、Y男はそれすら把握していなかったようだ。
「いわゆる名義貸しだとは思っていたし、グレーなのかなとは薄々気がついていました。でも、私も騙されたんですよね……。シャワーヘッドを買った人は、私を訴えるんでしょうか」(Y氏)
Y男はつい先日、名義貸しの件を捜査当局に相談。そのとき警察からは被害者にも加害者にもなる可能性があると指摘され、現在は連絡を待っている状態だという。
弁護士から手紙が届いた
あらためて、Y男にビジネスを紹介したというX氏の周辺を調べると、同じような流れでネットショップを開設し、第三者にその運営を任せていたという人が複数名いた。そのうちの1人、埼玉県在住のZ子(40代)は、SNSを通じて参加した異業種交流会でX氏に出会ったという。
「私名義のネットショップで偽のキャラクターグッズをたくさん売られてしまって、キャラクターの権利を持つ企業の弁護士から手紙が届いたんですよ。そこでXを問い詰めたんですけど、Xも中国の会社に業務を委託しているから分からない、の一点張り。中国の会社はまた別の人間から紹介されたということで、その別の人間に連絡を取ろうとしていますが、逃げているのか連絡が取れないと説明されました」(Z子)
Z子の証言を参考に様々なネットショップをチェックしていったところ、権利侵害や非正規品と思われる商品を販売するネットショップのうち「名義貸し」の状態で運営されていると思しきものが複数見つかっている。要は「楽な金儲け」という甘い言葉で、フットワークがよい、言い換えると信用情報を調べずに仕事に乗り出してしまう、うっかりしたところがある人々をおびき寄せ、非正規や不正コピー商品などを彼らの名義で売りさばいてしまおうという仕組みが、すでにかなり大きな規模でできあがってしまっているのだ。
当局や、ネットショップサービスの提供会社も、こうした実態をある程度は把握している。そして「首謀者の下に、事情もよくわからず巻き込まれた人が相当数いる」(捜査関係者)と認識はしているものの、大規模な捜査や摘発には動きづらいのが実情らしい。だからといって、各ネットショップの責任者たちが、罪に問われない可能性は小さいし、正規の権利者に対する損害賠償責任を免れるのは難しそうだ。
知らない間に非正規品や不正コピー品の販売サイト責任者になっていたY男や、著作権侵害したグッズのネット販売責任者にされていたZ子さんのように、知らない間に「加害者」になってしまい、首謀者が雲隠れしてしまう犯罪ケースが、近年かなり増加している。Y男とZ子を勧誘したXにしても連絡がとりづらくなっているといい、筆者からの呼びかけにはまったく反応しない。
何もしないでも定期的にお金が入る、などのおいしい話で販売などの仕事に不慣れな人たちを誘い込み、不誠実な内容の勧誘をした上で犯罪行為に巻き込み、罪をなすりつける。SNS上で未だに見られる「お金くばり」の投稿などの多くは、使い捨ての協力者をおびき寄せるためのエサとしてばらまかれている実態がある。
手軽な副業を始めただけのつもりが、気がつかないうちに犯罪者になっていたばかりか、実は自分も被害に遭っていた。まさに悪夢だが、厳しいことを言えば、身から出たサビとしか言いようがないのが現実だ。今回、紹介したY男やZ子の例は、被害者としての顔もあるのは確かだが、子供のイタズラではないので、知らなかったと主張したところでゆるされる範囲は超えているだろう。自分の行いについてはしっかりと責任を取らねばなるまい。