ソチ大会直後にクリミアを併合

 2014年2〜3月にソチで冬季オリンピック・パラリンピック大会が開かれましたが、閉会式の2日後の3月18日にロシアはクリミア半島を併合します。その根拠は、住民投票でロシア帰属が決められたことですが、それまでに周到な準備をして、この半島をウクライナから奪取したのです。

 1954年にフルシチョフは、ロシア共和国からウクライナ共和国への「友好の証し」としてクリミア半島を割譲します。それは水が不足するクリミア半島に水道管の敷設をするためには、同じウクライナ共和国の管轄にしたほうが地理的に便利だからです。

 37年後にソ連邦が崩壊することなど想像だにできなかったフルシチョフにしてみれば、クリミアがどの共和国に属そうとも、ソ連邦のメンバーでありさえすればよかったのです。

 1954年まではロシア共和国に属し、ロシア人も多いこの地域は、住民投票をすればロシア帰属が決まるのは当然でした。ただ、クリミアの住民投票は、ウクライナ全国民が行ったものではなく、「領土変更は国民投票によってのみ議決することができる」と規定するウクライナ憲法73条の違反であることは確かです。そこで、ロシアは、クリミアに独立宣言をさせ、独立国家としてロシアに併合させたのです。

 ウクライナに侵攻する直前の2022年2月21日、ロシアが、ウクライナ東部にあるルガンスクとドネツクを独立国家として承認したのは、このクリミア併合と同じプロセスを追求するためです。同年9月30日、プーチンは東部2州にザポリージャとヘルソンを含めたウクライナ4州の併合を一方的に宣言しました。

 プーチンもまた、スターリンと同じように「歴史的不正義を正す」ための戦いを挑んでいるのです。スターリンは、ドイツと組んで1939年にポーランドを分割したとき、1921年にポーランドに奪われた西部ベラルーシと西部ウクライナに軍を進めたのは、ベラルーシ人とウクライナ人を解放するためだと豪語しました。プーチンもまた、ウクライナ東部のドンバス地方に住むロシア人を解放するためだと、ウクライナ侵攻を正当化しています。2人の論理は酷似しています。

【プロフィール】
舛添要一(ますぞえ・よういち)/1948年、福岡県北九州市生まれ。1971 年東京大学法学部政治学科卒業。パリ(フランス)、ジュネーブ(スイス)、ミュンヘン(ドイツ)でヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授などを経て、政界へ。 2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、東京都知事を歴任。著書に『都知事失格』、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』など。

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