グランプリを受賞した岩瀬さんは、なぜこのコンテストに参加したのか。
「僕は、自分が経営する会社は家族同然だと思っていて、社業を通じて社員たちに父親が子供に見せる背中のように大きな背中を見せていきたいと思っています。そのためには私自身の成長が欠かせず、このコンテストで研鑽を積みたいと思って参加しました」(岩瀬さん)
今は13店舗のジュエリー・リサイクルショップとフィットネスジムなどの経営などで成功しているように見える岩瀬さんだが挫折もあった。
「もともと家業の3代目でしたが、37歳で起業してジュエリー・リサイクルショップを立ち上げ1年で40店舗展開するなど急成長を遂げることができました。ただ、リーマンショックで天国から地獄を味わい60人もの社員をリストラした。“家族”のクビを切らなければいけないのは身を切る思いで今も懺悔の気持ちが消えません。その後は2年間、経営再建のために奔走して心が折れそうでしたが、それでも諦めなかった。その後、なんとかまた持ち直すことができて年商25億円の会社に復帰させました」(岩瀬さん)
また「ベストスーツ賞」を受賞した渡邉一弘さん(49)は2016年の熊本地震を経験し、創業90年の家業である背広の仕立て屋の工場が全壊する被害に直面した。
「今や世界的に少なくなった本物のスーツを仕立てる店を地震で全て壊され、自分がこれまで生きてきた経緯まで失ったような気持ちになり、絶望の淵に立たされました。しかし振り返れば工場も移転し全てリニューアルし生まれ変わった気さえしています。日本人はスーツの着こなしが世界最低水準と言っても過言ではないくらい下手です。やはり着こなしにはサイズ感や色合わせが大事で、仕立ての文化を広げたい。このコンテストに参加したのはその理由に他なりません」
今年10月には東京工業大学のミスターコンテストで出場者が集まらず中止になった。挫折と再起を経験する熟年の男たちのコンテストは一味違う熱を帯びていた。
■取材・文/河合桃子(ライター)