花街にも新年の挨拶「事始め」を12月13日に行うならわしがある。祇園の「事始め」で京舞家元にあいさつに訪れた芸舞妓ら(時事通信フォト)
正月を迎える準備「餅つき」
山口組の事始め式では通例として、その年の新直参と本盃を交わすという盃事も行われる。盃事は親が何を言ってもそれを飲み込むという覚悟を示すものであり、媒酌人または口上人と呼ばれる司会進行役が口上を述べ、作法に則って粛々と執り行われる。そのため新直参となった組長にとって事始め式は、新年の挨拶という以上に重要な日である。
正月を迎える準備はこれで終わりではない。以前は年末に山口組総本部で餅つき大会が行われていた。この餅つき大会に若い者を手伝いに出したことがあるという暴力団幹部は、「駐車場には屋台が縁日のように並び、お祭りのような賑わいだった。いくつもの蒸籠で餅米を蒸し、盛大に餅つきが行われた。掛け声に合わせ組長らも交代で餅をついた。手伝っていた若い者らは、餅つきが終わる頃には頭からつま先まで粉にまみれて真っ白になるが、ついた餅を熱いうちに丸めるため、手のひらは真っ赤になっていた」と話す。餅は丸餅で組事務所に飾る鏡餅も作られていた。
ここには直参の組の組長や組関係者の家族や友人が大勢参加していた。「暴対法の前には、政治家や歌手やスポーツ選手などの芸能人も顔を出していた」と幹部。餅つき大会には近隣住民も参加し、ついた餅はそのまま配られ、ずらりと並んだ屋台はどれも無料。近所の子供たちにはお年玉まで配られていた。「最低でも1万円だったか、多いと3万円をお年玉として配っていた」。
S氏がかかわりのある某組も数年前までは餅つきをしていたが、コロナ渦で中止になったという。「紅白の餅をついていたが、赤は餅と一緒に干しエビを入れてついていた。形はかまぼこ型だったが、最近は丸餅になっていたな。そこの組は組員や身内に配るぐらいの餅をついていただけだが、餅つきを見るのは正月気分になって楽しいが、やる方は準備も作業も大変だ」
今年の年末も残念ながら餅つきは行われない。「事始めも終わりましたし、静かな年末ですよ」とS氏は口元を歪めて笑った。