右から安全保障研究者の小泉悠氏、ジャーナリストの峯村健司氏、国際政治学者の細谷雄一氏

右から安全保障研究者の小泉悠氏、ジャーナリストの峯村健司氏、国際政治学者の細谷雄一氏

峯村:すでに昨年11月、尖閣の領海に、76mm砲を搭載した海警の船が侵入しました。それ自体が明らかな「現状変更」ですが、日本政府は何も手を打たなかった。

細谷:中国の巨大な艦船に尖閣領海を包囲されると、海保の船が東シナ海に入れなくなります。無理やり入ろうとする海保の船が、海警の船と衝突して沈没するかもしれない。中国はまず尖閣を獲り、じわじわと影響工作をしてから台湾や沖縄の奪取を目指すのではないか。

小泉:そうなる前に尖閣の防御を固める必要があります。2015年に中国は南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)の暗礁をいきなり埋め立てて人工島を作りましたよね。日本も同じように尖閣の周辺を埋め立てて巨大滑走路を作り、基地化するのはどうでしょう?

峯村:おっしゃる通り、実効支配の強化は国有化より有効です。ただし中国は「尖閣は現状維持がレッドライン」と主張し、日本が尖閣に人工構築物を建てようものなら、武力行使を辞さない構えです。

細谷:自分は南沙諸島で一線を越えたのに、日本にはそれを許さない。あの国は「お前の物は俺の物、俺の物は俺の物」を地で行くジャイアンですよ。

 日本に残された手は、台風の季節に海保の船が尖閣に行き、遭難したとの名目で島に上陸して、そのまま居座ることです。偽装漁民を尖閣に上陸させ、その救済のために海保の船が駆けつけたが、偽装漁民が体調を崩して動けないから……と尖閣にとどまる手もあります。

小泉:その漁民の健康を守るため尖閣に診療所を作ればいい。それくらいの肝っ玉が必要です。

第3回に続く第1回から読む

【プロフィール】
小泉悠(こいずみ・ゆう)/1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。外務省専門分析員などを経て現在は東京大学先端科学技術研究センター専任講師。専門はロシアの軍事・安全保障。

峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年生まれ。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員、青山学院大学客員教授、北海道大学公共政策学研究センター上級研究員。朝日新聞で北京・ワシントン特派員などを歴任。

細谷雄一(ほそや・ゆういち)/1971年生まれ。英国バーミンガム大学大学院から慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。北海道大学専任講師などを経て、現在は慶應義塾大学法学部教授。

※週刊ポスト2023年1月13・20日号

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