昨夏は甲子園のマウンドにも立った山口
直球の回転数は大谷、佐々木朗レベル
バッティングも非凡なセンスがあるという山口だが、現在は三塁を守ることはなく、小高いマウンドが彼の居場所だ。
「試合中のように、ボールが一個だけ動いている状況なら問題はありませんが、ノックなどでボールがいくつもダイヤモンド内を行き交う練習では、打球音や周囲の選手の声が聞こえづらいとかなり危険を伴う。万が一、ボール回しの時などに硬いボールが当たってしまったら選手生命にかかわるかもしれない。そこで投手に専念させるようにしたんです。彼の直球の回転数は2500を超えている。大谷翔平、佐々木朗希レベルです」
指導者や仲間の支えがあって、山口のコミュニケーション能力も成長し、山口は伝統校のエース格に成長してきた。
ところが、昨年の甲子園のあと、選抜出場を目指すチームにあって、山口が練習に出て来ない時期があった。野球に悩み、友人関係に悩み、野球部だけでなく学校も辞めたいと言い出したのだ。
ある日の授業後、制服姿の山口が鍛治舎監督の前に現れた。
「監督、一対一でお話が……」
勇気を振り絞って山口がそう切り出すと、鍛治舎監督は血相を変えてこう伝えた。
「話なんかないぞ」
障害を持つ山口に対し、鍛治舎監督は健常者の部員と同じように、いや、健常者の部員以上に厳しい言葉で、山口を叱責したのだ。
【後編に続く】