『ぼけの壁』著者・和田秀樹氏が重要度を格付け。「ぼけないための鉄則」30
さらに症状が進むと知能障害が生じて身の回りのことができなくなり、最終的には会話が成り立たなくなり、身体機能が低下して寝たきりになっていくという。
ただし、脳には残存機能があり、健康な頃に比べて衰えても長年続けてきた家事や運転といったそれまでに身につけた能力や技術(手続き記憶)は最後まで残る。進行を遅らせるためには、それらがカギとなる。
「長年続けた手仕事や家事などの習慣は症状が進んでも続けられます。進行を遅らせるために最も大事なのは、“今できることを減らさないこと”です。特に、『人との交流』『適度な運動』『趣味』の3つをやめてしまうと認知症を悪化させます。心配する子供に呼び寄せられて同居する人もいますが、それによって友人との交流や趣味が断たれ、かえってストレスになり健康を害しかねません」
一人暮らしが可能ならそれを続け、運転ができるなら免許を返納しないといった「生活習慣を変えない」「できることをやり続ける」ことが肝要だという。
老人性うつは早期発見で完治も
一方の老人性うつは、認知症と症状が似ているものの、対応は違ってくる。和田氏が言う。
「老人性うつは死に至る病で、認知症より怖い。認知症は症状が重くなると、むしろ幸福感が現われてニコニコする患者が多いが、老人性うつは『家族に迷惑をかけている』と気分が沈み、自殺につながりかねません」
和田氏は臨床経験から老人性うつを患っている人が相当多いと考えている。それにもかかわらず、「何となく元気がない」「一日中ボーッとしている」など、初期症状が認知症と似ているため、医者でも間違えやすい。
「老人性うつが原因で、記憶力が低下したのに認知症の薬を処方されたり、普通の不眠と誤診されて安定剤を渡されるケースも。見分けるポイントは発症時期です。認知症はゆっくり進行するので発症時期が分かりにくいが、老人性うつはある時期に突然症状が現われ、1か月間くらいの短いスパンでどんどん進行します。また、老人性うつは食欲不振と睡眠障害が併発しやすいことも特徴ですが、『歳だから仕方がない』と、医者や家族に流されてしまうこともあります」
周囲からも見逃されがちな病気だが、早期に発見できれば完治できる可能性が高まるという。
「高齢者のうつは心の病気とされましたが、今は脳の病気と考えるのが主流で、適切に治療すればほぼ完治できます。なんらかのストレスで、神経伝達物質であるセロトニンの分泌量が減ることで脳の神経細胞が傷つくことが発症の主な要因です。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)といった薬を適切に投与することで、2週間くらいでかなりの改善をみるケースもあります」
正しい認識を持ち、適切な治療を早期に始めるのが望ましいという。
※週刊ポスト2023年1月27日号