これだけ違う 岸田と菅政治
旧来の自民党政治に逆戻り
安倍─菅政権の権力構造の改革は、自民党や財界との関係にも及んだ。
閣僚人事では、派閥の順送り人事を改め、副大臣や政務官に無派閥の若手議員を積極的に登用して自民党の「派閥政治」を弱体化させ、官邸主導を確立した。財界との関係でも、安倍氏はアベノミクスの金融政策を批判した当時の米倉弘昌・経団連会長と対立、これをきっかけに財界と政治の関係は政治優位に逆転した。
ところが、せっかく安倍─菅政権が築き上げてきた政治主導が、岸田政権で一気になくなってしまったという。
「岸田首相は安倍政権で外相や政調会長を歴任し、政権中枢にいたから政治主導のやり方は学んでいるはずだったが、実際には、能力不足だった。岸田官邸は霞が関が上げてくる案件にラバースタンプを押し続けている。そのために財務省をはじめとする官僚は、この政権なら我々の思う通りに操れると思うようになった。総理・官邸が政治を動かし、政策を決めるという形が崩れてしまいました」(長谷川氏)
自民党や財界との関係も逆戻りした。岸田首相は閣僚人事でも「派閥政治」を復活させ、派閥の順送りで選ばれた大臣たちが失言や不祥事で4人も辞任に追い込まれる結果を招いた。
政策面では財界が要望する「原発推進」や「コロナの5類移行」を推進し、財界への迎合ぶりを見せつけている。
岸田政権の官僚主導政治の象徴とも言えるのが、アベノミクスを推進した黒田東彦・日銀総裁の後継人事だ。政府が雨宮正佳・副総裁に総裁就任を打診したと報じられた。金融ジャーナリスト・小泉深氏が語る。
「安倍政権は金融政策を転換させるために財務官僚出身ながら異端の金融緩和論者だった黒田氏を財務省や日銀、財界の猛反対を押し切って総裁に抜擢した。それに対して、岸田さんは官僚秩序に波風を立てないように、日銀総裁には財務官僚OBと日銀プロパーが交互に就任するという霞が関の慣例を尊重した。これは政治の人事権放棄といえます」