猫にとってストレスフリーな環境や食事、接し方で飼育すれば、元気に長生きできる時代になったことは間違いないと野矢さんは続けた。さらに、猫が長生きになった理由について大阪府のまねき猫ホスピタル院長・石井万寿美さんはこう話す。
「ある研究グループの調査によると、1990年の猫の平均寿命は5.1才でした。約30年を経て、10才以上も寿命が延びたことがわかります。
その理由は、首都圏を中心に完全室内飼いが浸透したことが最も大きいといえます。ほかにも、獣医学の発展や、飼い主が猫に対して正しい医学知識を持つようになったことなどもあげられます」
1990年代までは外で飼うのが主流だったのだ。しかし、外には猫の寿命を縮めるほどの危険が多い。ほかの猫との接触によるけがや感染症、交通事故などだ。これらは室内飼育ならば防げる。
また、外に出すとこんな問題も起こるという。静岡県の主婦・山本佳代子さん(58才)はこう話す。
「わが家のタマは、昼間は外に出していました。夕方になると勝手に帰ってくるので……。ところが11才になったときに糖尿病を患い、食事療法を始めたのですが、外に出ている間に近所でエサをもらっているらしく、病状が改善しませんでした」
せっかく治療を施しても、外に出すとその間のケアはできない。これもまた、外猫が短命になってしまう原因だ。
死因の1位は慢性腎不全
室内飼育の普及で、前述の通り、けんかや交通事故、猫エイズなどの感染症によって死ぬことは減ったが、長寿になるほど、さまざまな病気にかかるようになり、近年の死因は、慢性腎不全、がん、心臓病などが増えている。
猫の死因や入院理由の1位である「慢性腎不全」については、現在は対症療法で症状を緩和する治療しかできない。しかし、幹細胞による再生医療をはじめ、さまざまな研究がなされているため、近い将来、よりよい治療法が確立される可能性が高いという。
「以前は下部尿路症候群というおしっこが出なくなる病気に苦しむ猫が多かったのですが、いまは対応するフードが開発され、飼い主の病気への理解も浸透したせいか、以前に比べて罹患率は減っています。ですから、慢性腎不全の治療も進歩すると思います。
当院でも、幹細胞を培養した上清液を使った再生医療を行っています。再生医療がもっと進歩して腎臓の再生が可能になれば、猫が30才まで長生きできる未来も夢ではありません」(石井さん)
猫の寿命を延ばす病気治療の未来は明るいようだが、表にあるように、猫が入院した場合、1回あたり5万〜11万円の医療費がかかる。前述の愛猫家・木村さんのように、飼い主の負担が大きくなるのが新たな課題になっているという。
「猫という守るべき存在が、飼い主の人生の張り合いとなる面もあると思いますが、医療費や介護の手間を考えると、長生きのリスクをどう解決するかは考えないといけない問題です」(石井さん)
【プロフィール】
ノヤ動物病院 院長・野矢雅彦さん/獣医師。ペットの診療・治療のかたわら、『愛猫を長生きさせる習慣』(八重洲出版)などペット関連書籍の監修や執筆も行う。
まねき猫ホスピタル院長・石井万寿美さん/獣医師。『動物のお医者さんになりたい』(コスモヒルズ)など著書多数。
取材・文/北武司
※女性セブン2023年3月2・9日号