昨年放送『エルピス』での“ハラスメント上司”の役作りについて明かす(撮影/横田紋子)
「台詞のスピードと仕草」で「村井」を掴んだ
──一転、『エルピス』で演じられたテレビ局プロデューサーの村井喬一役は……序盤は最悪だなあと思って観ていました。部下に「更年期か?」「バーカ」「クズ」「ボケ」とパワハラを連発。これまで演じられた役もそうですけど、岡部さんはどこでスイッチを切り替えられるんですか?
岡部:スイッチはこの辺をひねったら……(と、耳を指す)……ってそんなわけはないですね(笑)。村井も葛西も、芝居で自分が“ノレる”ところを作ることができたんですよ。これは体が明確に感じたというか。いつもそうなんですけど、その“ノレる”部分を最初に探すんです。これがあると自然に役に入り込むことができる。
──村井役では具体的にどこで“ノレた”のでしょうか?
岡部:まずは話すスピードでした。いやもう、ヒロインの長澤まさみさんにあれだけ罵詈雑言を浴びせる役だったわけですし、最初はどうしようと迷っていました。もちろん監督にも相談しましたけど「炎上しないようにお願いします」と言われたくらいで。
村井ってね、「能無し」「ババア」とか言ってましたけど、最終的に悪意があるわけではなかった。悪態つきまくったけど、もうひとりの村井が言っているようなもので、けして意図していない。そこを表現したかった。で、最初に話すスピードを掴んだ。垂れ流すようにセリフを言ってみることにしたんです。
次に仕草。浅川恵那(長澤)に対してパワハラが始まったら、何かを飲みながら、食べながら、デスクにあるものをいじりながら……とやっていたら、あの村井ができあがったんです。それが見つかった。あとは暴れようと(笑)、カラオケを歌っていようと、自由に村井を操作できる体になっているんです。
でも頑張った割には演出の大根仁さんに「SNSで悪口を書かれているよ〜」と言われましたけど(笑)。今やらせてもらっている『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系列)の小野田役もね、掴んだんですよ。ノリ。
* * *
『エルピス』放送当初、「まあ、あの人、口悪いけど本心ではないから……」とフォローするのも憚られるほど、嫌なおっさんだった村井役。観ていて本当に腹が立った。あれが当初から設定された悪人のヴェールだったと知り、岡部さんの演技に舌を巻く。そういえば村井を観ながら、ずっと小さな悲哀を感じていたことを思い出す。それも岡部さんが味わってきた艱難辛苦あってこそなのだろうかと、しみじみしてしまった。
【第3回へ続く】
役の“ノリ”を掴めば「自由に操作できる体になる」という(撮影/横田紋子)
【プロフィール】
岡部たかし(おかべ・たかし)/1972年6月22日生まれ。和歌山県出身。俳優を志して上京後、劇団東京乾電池に所属。その後劇団を退団、数多くのドラマ、映画、舞台に出演を続けている。2022年出演の『エルピス』(関西テレビ、フジテレビ系列)、NHK夜ドラ『あなたのブツが、ここに』での一癖ある役で注目される。自身が立ち上げた演劇ユニット『切実』では演出も担当。
『リバーサルオーケストラ』より。門脇麦演じるヒロイン谷岡初音と天才指揮者を演じる田中圭(c)NTV
生瀬勝久は物語の舞台「西さいたま市」市長・常葉修介役(c)NTV
市長(生瀬勝久)のライバル議員役に、津田健次郎(左)(c)NTV
◆取材・文/小林久乃