綱取りに挑んだ大関・貴景勝が休場に追い込まれるなど、大相撲3月場所の幕内の土俵は波乱が続いている。そうしたなか、十両の土俵で存在感を見せているのが、1月場所に幕下15枚目格付け出しでデビューし、史上最速の初土俵から1場所で新十両に昇進した令和の怪物こと落合(19、宮城野部屋)だ。関取のデビュー戦を白星で飾ると、前半戦を6勝1敗の成績。大関経験者や幕内優勝経験者など実力者がひしめく十両で実力を十分に見せているが、師匠の宮城野親方(元横綱・白鵬)は、現状に満足しているわけではないようだ。
好調を維持する落合だが、6日目からは関取の立場でありながら、宮城野部屋の先輩で身長204センチの北青鵬(21)の付け人を務めている。北青鵬は鳥取城北高の2年先輩にあたるが、関取が付け人をすることは異例のことだという。担当記者はこう言う。
「落合が2日目に、同じ新十両の玉正鳳(30、片男波部屋)に敗れたことと無関係ではないのだろう。玉正鳳は関取になった今場所も兄弟子の玉鷲(38)の付け人を続けていた。片男波部屋はこの2人の他に序二段力士が2人いるだけなので、付け人が足りない。そんななかで玉正鳳は義理の兄(玉鷲夫人は玉正鳳の姉)の付け人を買って出ているわけです。そういう苦労人に、超スピード出世の落合が負けた。師匠の元・白鵬としては、落合にも付け人のような経験が必要と考えて命じたようだ」
新十両場所として初めて15日間の取組を経験するうえ、付け人業務までこなすとなれば疲労度は増すが、若手親方は「宮城野親方の“英断”だ」と拍手を送る。
「幕下以下の力士には関取や親方の付け人をやったり、チャンコ番をしたりといった仕事がある。部屋では風呂場での背中流しから、ちゃんこの給仕、身支度までやる。本場所中は関取の明荷や座布団の運搬など、付け人の仕事は多岐にわたるが、勉強になることも多い。付け人をやることで角界のしきたりを覚え、付け人の気持ちがわかるようになる。関取になった時に、そういう経験が生きてくるのです。嫌な思いをさせられた関取を反面教師にできれば、付け人から慕われる関取になれる。部屋のちゃんこの味を覚えれば、新しく部屋を興した時に伝統を引き継ぐこともできる。
付け人が足りない時は一門内の他の部屋から応援を出してもらうが、関取がいない部屋では“付け人をさせると勉強になるのでよかった”と親方も喜んで出してくれる。有望な新人には親方の付け人をやらせてエリート教育をすることも少なくない。付け人時代の経験がその後の力士人生に与える影響が大きいという考えだ」(若手親方)