WBC決勝で米国をくだし、優勝を喜ぶため大谷翔平に駆け寄る侍ジャパンの選手たち(AFP=時事)

WBC決勝で米国をくだし大谷翔平に駆け寄る侍ジャパンの選手たち(AFP=時事)

“憧れ”は人に夢や希望を与え、目指す目標になったりする。それがアスリートだったなら、憧れの選手のフォームやプレーを真似、自分も上達しようとするだろう。だが人は誰かに憧れを抱くと、その対象を自分より上、自分より優秀だと思うようになる。そうすると無意識のうちに自分をその相手より下に位置付けてしまう。越えられない壁や一線を自分の心が作り出してしまうのだ。相手を強い、できる、優秀だと思えば思うほど、勝つのは難しく、敵わないかもしれないというネガティブな感情が生まれる。自分で自分にプレッシャーをかけ、対抗心を弱くしてしまうのだ。憧れに追いつき、同じ土俵に立った時、相手への憧れは捨てたほうがいいのはこのためだ。

 試合では目覚めた村上は1点を追う2回裏にホームランを放って、同点に追いついた。さらに岡本和真選手(読売ジャイアンツ、26才)もホームランを打ち、日本リードのまま迎えた9回表、マウンドに上がった大谷選手のユニフォームは泥だらけ。ピッチャーのユニフォームが汚れているのをテレビで見るなど、高校野球ぐらいしかない。中居さんが「ユニフォームが泥だらけのストッパーというのは初めて見ました」と声を上げたが、それはこの試合で大谷選手が活躍してきた証だ。試合が終盤に近付くと、ピッチャーとして登板するためブルペンで肩を作り始めるが、打順が回りそうになるとベンチへ戻る。何度も行き来する姿が画面に映し出されていた。プロ野球では見ることのない姿に、これまで二刀流はできないと言われてきた理由がよくわかった。

 最後に迎えた打者は、エンゼルスの同僚で米国代表主将のマイク・トラウト選手(31才)。大谷選手が試合後のインタビューで「最高の形で迎えることができて、最高の結果になったので、よかったと思います」と言ったように、2アウトを取った後、最後の打者として迎えたかったのがトラウト選手だ。フルカウントからのスライダーで、トラウト選手は空振り三振。大谷はグラブを投げ、帽子を投げて、喜びを爆発させた。

「本当に夢見てたところなので、本当にうれしいです」という大谷選手は、「最高の形で終わることができたので、全員が自分たちの仕事をして、きのうもそうですけど、粘り強く最後まで諦めずに、監督を優勝させることができてよかった」と語っている。この日、憧れを捨てた選手たちは、米国代表相手にきっちりと自分の仕事をこなしたのだ。

 野球をやっていたら誰しもが聞いたことがあるような憧れの選手たちを負かし、世界一になった侍ジャパンの選手たち。今度は彼らがみんなから憧れる存在になる番だろう。

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