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【山口連続殺人放火事件】5人殺害の犯人と別に「つけ火した悪いやつがいた」村人の証言

貴重な証言を得た高橋氏(時事通信フォト)

事件のあった集落で高橋氏は貴重な証言を得た(時事通信フォト)

 2013年7月、山口県周南市のわずか12人が暮らす集落で、一夜にして5人の村人が撲殺され、翌日、放火の焼け跡から遺体が発見された。「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という犯人・保見光成死刑囚の家に貼られた紙は、「衝撃の犯行予告」として世間を騒がせた。だが、現地取材を続けたノンフィクションライターの高橋ユキ氏は、その俗説を根底から覆す証言を村の住人から得た。【前後編の前編】

 * * *
 郷集落に着いてから人に行き合っていないし、どの家にも人の気配がない。

 心細くなりながら、小川沿いの道をゆっくりと進む。気温が低すぎるせいか、手に持っていたスマホは突然電源が落ち、動かなくなった。小川の反対側には、この道路よりも少し高い位置に県道9号線が沿っている。あの県道からは村の家々が見渡せる。事件発生時は中継車が停まり、テレビもそこから村の遠景を捉えていた。

 さらに細い道を東に進むと左手の高台に家が見えた。見上げると、グレーのトタン屋根一面に『魔女の宅急便』のキキが箒にまたがっている絵が描かれている。玄関前には旭日旗が掲げられ、引き戸の前に置かれたホワイトボードに夏目漱石、福沢諭吉などの名前が書かれていた。すりガラスの引き戸の奥には蛍光灯のあかりがちらちらと見える。

 今度こそ人に会えるかもしれない。扉を叩いて「こんにちは!」と外から呼びかけた。ところが、そのたびに中からテレビとおぼしき音がどんどんと大きくなっていく。4回ほど呼びかけたころには、騒音レベルにテレビの音が大きくなってしまった。真昼なのに薄暗い村を歩いているだけでも怖いのに、この家人の対応にいっそう怖さが増したので、声をかけるのを諦めた。

 郷集落の東の端にあるのは、殺害された河村聡子さんとその夫、二次男さんの家だ。そこを目指し『魔女の宅急便』の家を離れ、草の生い茂る川沿いを再び歩くと、背の高い木がみっしりと植えられた私道を登った山側の高台に、誰も住むもののいなくなった石村文人さんの家、そしてもう一軒の二階建ての家があった。こちらも不在だった。

 石村さんの家には空気を入れ替えるために家族が時折訪れていると聞いた。すりガラスの引き戸の奥は真っ暗だ。古く黒い木で作られた表札に「石村文人」と大きく書かれている。その石村さんは3年半前、この引き戸の奥で、保見に頭を何度も殴られ、絶命した。保見はこの引き戸を開ける時、何を考えていたのか……。

 隣の家の犬がけたたましく吠えた。さっきの道に戻ろう。この先には河村二次男さんがいるはずだ。もしも河村さんが不在なら、今日は郷集落での取材はかなわない。細い道に戻り、さらに先を目指すが、草が鬱蒼と生い茂り、廃道のような趣になってきた。この先に住居があるのだろうかと焦りが募り始めた頃、ようやく家らしきものが見えてきた。大きな物置のようなものが置かれたガレージのそばには、まだ艶のある御影石の墓。玄関引き戸の脇には「キンポー整体院」「札所(六代目)」と毛筆で描かれた木の看板が置かれている。

 引き戸の前から呼びかけるとしばらくして高齢の男性が、玄関横の窓を開けて姿を見せた。がっしりとした上半身をしている。

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