「あいつ(妻)が先に入っちゃった」と河村さんは言いながら、目元をこすった。
その後、近隣の集落の村人たちにも話を聞いて回ったが、皆、河村さんと同じことを話した。「河村さんの家の風呂場が焼けた」が、その犯人は「保見ではない」と。
「金峰の夜這い」についても、夜這いそのものが金峰地区にあったらしいことは分かったが、戦中の夜這い(強姦)を巡る河村家と保見家の禍根について知っている人はいなかった。またそもそも、河村さん自身「長男」ではなかった。
「兄貴は、公務員やなんかやりよった。39(歳)で交通事故で死んだから、そんで帰った。それまで、わしは外に出とった」
件の記事は、保見の虚偽の言い分をもとに作り上げた記事だった可能性が高まった。
【後編に続く】
※文庫『つけびの村 山口連続放火殺人事件を追う』から一部抜粋