日本中を感動の渦に巻き込んだ、野球日本代表・侍ジャパンのWBC世界一奪還。その栄光の瞬間は、米国・マイアミのローデンポ・パークスタジアムでも、多くの日本人観客が目撃した。その一人が、脱サラ・バツイチ48歳の元スポーツ紙芸能記者・瀬津真也。小学生の娘二人を両親に預けての弾丸追っかけ旅行で、現地でしか感じられない感情や様子を、緊急ルポでお届けする。【前後編の前編】
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夢か現か幻か──。
一塁ベンチ裏の客席からは、大谷翔平とトラウトが対峙する18.44mの空間が、まるで映画館のスクリーンのようにすっぽりと視界に収まった。左手には録画中のスマホ。右手には、「必ずマイアミでも登板する」と、期待を込めて作ってきた投手・大谷の写真入り応援ボードを掲げた。既に枯らしたしゃがれ声で、精いっぱいの大谷コールを連呼する。圧倒的なU.S.A.コールにかき消されて、届くはずもないのに、日本人として叫ばずにはいられなかった。
カウント3-2。次で決まる。
その瞬間、目立つかもとわずかな邪念も籠っていたボードを「これではダメだ」と、慌てて投げ下ろした。
最後の1球。わずか0.43秒の白い球筋は、はっきり見えた。空振り三振。アラフィフは、声にならぬ声を上げながら、ブルブルと震える手で、吠えてグラブを投げる大谷にズームした。脳裏に刻まれた世界一の瞬間は、スマホ越しだったか、直視できたのかは記憶にない。頬をつたう水滴も、涙か汗か分からない。ただただ、歓喜の輪の中で飛び跳ねる大谷を追い続けていた。
元スポーツ紙記者として、数々の名場面にも立ち合ってきたくせに、これまでに経験したことのない興奮に、我を失った。試合直後からの優勝記念Tシャツの限定販売も分かっていたが、客席からは長時間離れられずに、放心状態で優勝セレモニーを延々と眺めていた。共に観戦した米国人の友人と球場係員に退場を促されて、ようやく足が動いた。
そこからは、急に激しい頭痛とめまいが襲った。応援だけでも、ここまで精魂を使い果たせるのか。BTSやジャニーズに熱狂する追っかけファンの気持ちが、初めて分かった。我ら応援ファンにとっても、それほどまでに消耗した連夜の死闘だった。