「数日ごとに体調のよくない日を繰り返すこともあり、ムツゴロウさんは『年を取るのは辛い。何ひとつ自分の思った通りにはできない。1時間立っているのがやっと』とお話しされていて、長い時間しゃべると、とても疲れてしまうそうです。そして、『自分が何を言ったか、何をしゃべったか、すぐに忘れてしまう』とも話していました」(同前)
東京大学理学部を卒業したムツゴロウさんは、作家としても多くの著書を残してきた。取材や講演会などでも四六時中、ペンと原稿を持ち歩き、移動の合間に執筆するほど多忙な日々を送っていたが、近年はペンを握る機会も減っていた。
「『僕はしゃべるときは一切、資料を持ちません』とか『大学院を出るまで一冊もノートを使っていないんですよ』なんて、以前は楽しそうに話していました。記憶力が良かったということなのでしょうが体調を崩されてからは、『昔は辞書なんかいらなかったのに、みんな頭からすっとんじゃった。老いは自分がなってみたときに一番わかる。毛の1つ1つの生え方でも物覚えが全然変わってくる。老いたことで、いろんな器官が循環不足になっているんですね』と、“老い”と闘っていました。
『理想の死』についても語っていました。『僕は長く生き過ぎました。今でも家で一瞬にして気を失う時があるんだけれど、意識を失ったままというのが僕の理想の最期です』とお話しされていました」(同前)
毎年、東京で絵画や詩などの個展を開催していたムツゴロウさんは、自宅で創作活動を続け、「会場に行って、来ていただいた皆さんをおもてなししたい」と、意欲を示していた。だが、大病を患い、コロナ禍となってからは上京を断念していた。そんな時に、始まったのが動物の生態についてムツゴロウさんが語るYouTubeチャンネル『ムツゴロウの656』だった。
「動物と触れ合って、初めて気づかされることや感動することを皆さんに伝えることがムツゴロウさんはご自身の使命だと語っていました。それがYouTubeを始めるきっかけになったそうです。ムツゴロウさんは『僕は656回の中で自分の体験、体感、手触りとか、そういうものを伝えてあの世に行きたい。656回やらなければいけないんだから、すぐには死ねないんです。がんばって生きなきゃならんって痛切に思います』とお話しされていたのに……」(同前)
テレビ番組、著書、YouTubeなどを通して、伝えたかったのは「命というのはお互いに伝え合うもの」とも語っていたムツゴロウさん。天国ではどんな動物王国を作るのだろうか。