2020年7月の甲子園。新型コロナウイルスの感染対策として、ビニールシートが設置された売店。店員もマスクと手袋を着用して接客する(時事通信フォト)
「効果がどうこうより「アクリル板が店にあること」が重要だったんですよ。以前はコロナがどうなるかもわからなかったし、国も都も厳しかったから」
馴染みの定食屋で店主に話を伺う。ここは2020年にも一度取材をしている。アクリル板はすでに撤去されていた。
「いちおう倉庫に置いてあります。もう汚いけど、買い替えるのも無駄ですし。あれ、結構するんですよ。というか高かった」
各地方自治体は「感染症対策サポート助成事業」などの名目で感染症防止ガイドラインに沿った取り組みに対して助成金を支給してきた。アクリル板の購入もその一環だったが、とくに当初はアクリル板の値段が今より高かったと話す。
「品薄だったからかわからないけど高かったね。いまじゃ買う店も少ないだろうけど、あの時はアクリル板を置かないといけなかったからね」
東京都は「感染防止徹底宣言ステッカー」、大阪府は「感染防止認証ゴールドステッカー」といった名称で認証基準に従って感染防止対策を講じた事業者を認定してきた。各都道府県にも同様のステッカーがあるが、この条件のひとつもまた、アクリル板の設置だった。このステッカー、すっかりお馴染みとなったが、いずれも5月8日付で廃止の予定である。そもそもこのアクリル板、2022年12月にいち早く、当の厚生労働省は閣僚の記者会見で演台に設置していたアクリル板を撤去した。そして3月13日には予算委員会など国会内のアクリル板も撤去された。アクリル板は官のほうが早々に撤去の運びとなった。
「仕方がなかったんだろうけど、マスクより意味不明だったのはアクリル板だよ。風通しよくしろって言うのに風通し悪いし、結局は不衛生だし、何の意味があったのかね」
逆に筆者が尋ねられてしまったが困る。何しろ3月23日、岡部信彦氏や尾身茂氏などの厚労省の専門家会合ですら「効果を評価することは困難」と提言してしまった。厚労省は「室内での感染対策におけるパーティションの効果と限界」という資料を起こしている。
〈パーティションに期待された役割は、会話などにより発せられた比較的大きな飛沫が対面にいる相手に飛ぶ前に物理的に遮断すること、いわゆる飛沫感染対策です。パーティションが適切に設置された場合には、飛沫感染対策として有効であったと考えられます。ただし、様々な感染対策が同時に行われてきたなかで、どの程度、パーティション設置が対策に寄与したかを検証し、その効果を評価することは困難です〉
とのことで、冒頭の「はじめに」の中では「室内でのパーティションについて、今後の必要性についての問い合わせが多く寄せられている」ことを認めている。そして「極めて微細な粒子によるエアロゾルについては、空気中を浮遊し、空気の流れで室内に拡散するためパーティションでは十分な遮断はできず」ともしている。このアクリル板を推奨した経緯の理由としては「当時はマスク不足」「感染経路や伝播の程度が不明」だったことを挙げている。一応、「今後も活用はあり得る考えられます」としているが、結局のところ「効果を評価することは困難」という結論となった。