愛猫を驚かせてもいけない(イメージ)
辛抱と根性だけではやっていけないことも
猫にまつわる事件はこれだけに終わらなかった。部屋住みの修行期間も残すところ後1週間というある日。若手組員は先輩組員と一緒に、組長の自宅2階を大掃除していた。そこには壊れた扇風機が置いてあった。
「これ、どないする?」と若手組員が聞くと
「もう捨てろや」と先輩組員が答えた。
「そこの窓から投げろ」と指示された若手組員は、何の躊躇もなく扇風機を持ち上げ、二階の窓から庭へと放り投げた。ガッチャンと大きな音を立てて扇風機が地面に落ちた。
ところがその窓際に、うとうとと日向ぼっこしていた組長の猫がいた。大きな音とその衝撃に驚き「ギャー」と悲鳴に近い声を上げた猫は、一目散に逃げだした。
「あんたら、何しとる!」
すぐさま姉さんが血相を変えて飛び出してきた。
「下手に2階から物を投げて、下におったらどないする!」
気性の荒い姉さんは、そこから延々怒鳴りまくると最後に「あんた、クビや」と若手組員に言い放った。
先輩組員が土下座して「あと1週間ですから、満期までちゃんと居させてやって下さい」と頼み込んだが、姉さんは首を縦に振らない。先輩組員が組長に事情を説明して、取りなしてもらおうとしたが姉さんはヘソを曲げたままだった。部屋住みの修行が満期満了で終わらなければ、その組員は途中で帰された人になる。その後のヤクザ人生に最初からケチがついてしまう。だが姉さんは意地悪だった。
先輩組員はこの時のことを振り返り「ヤクザには運が必要だ」という。
「初めにどの組に入り、どんな組長につくかで、その後のヤクザ人生が左右される。部屋住みとなれば、姉さんがどんな人かも大きい。組長は尊敬できても、姉さんがそういう人とは限らない。辛抱と根性だけではやっていけないことも出てくる」
その夜、若手組員は飛んでしまった。部屋住みから、事務所から逃げた。辛抱できなくなったのだ。若手組員は逃走したものの、すぐに事務所に帰ってきた。たが部屋住みには戻れなかった。猫がきっかけで下手を打ちヤクザ人生の最初で躓いてしまうこともあるのだ。ヤクザは本当に運次第だ。