──事件や災害の現場では、話をしたがらない方から話を聞きだすことになります。気をつけていることはありますか。
「現場に行くと『お前のこと知ってるよ』と怒鳴られることもあるし、不平不満が溜まっている取材対象者の方が多い。僕はその方々の言いたいことを全部聞くことにしています。『でもね』とか、絶対に否定しない。何分かすると怒りも収まってくるんですが、そこで一度その場を離れます。少し時間を置いて、もう一度行くと、最初と態度が変わって受け入れてくれることが多い。怒りを僕にぶつけたら、気が楽になるんでしょう。どうしても何もしゃべりたくないという場合は去ります。でもこの方に話して欲しいと思ったら、何回でも訪ねに行きます。そうすると『何が聞きたいんですか』と受け入れてくれる。カメラの撮影なんてどうでもいい、間違ったことを報道したくないという態度を見せるんです。
『取材でうかがったんですけど』と入るとだいたいダメですね。もちろん僕も取材者ですけど、『取材対象者が言いたいことを聞きに来ている、そしてそれに賛同しに来ている』ということをなんとか伝える。俳優をやっていたから、自分の立場も一瞬のうちに切り替えられますけど、この立場は嘘じゃなくて、本当にそう思っているんです。
以前は誰よりも早くということばかり考えていたので、物事の本質に辿り着くまでに時間がかかった。でも事件の肝は何なんだと突き詰めだしたら、何も焦ることはないということに気がついた。1週間遅れようが、10日遅れようが、絶対に他社が引き出せなかった話が取れるという確信が持てるようになったんですよ」
──阿部さんと言えばお馴染みの「事件です!」。このフレーズはどのタイミングで生まれたのですか。
「『スッキリ』」がスタートする時に総合演出の方に何かキャッチフレーズが欲しいと言われて、とりあえず3か月間、「加藤さん、事件です!」と言い続けてくれと言われたのがきっかけ。それ以来、事件じゃない時も、『事件です』と言い続けてきて、今では阿部祐二のお決まりのフレーズになった。さっきもバラエティ番組の収録があったんだけど、2回も『事件です』と言ってきたばかりで(笑)。もう言わないと周りが満足できないような雰囲気なんですよ」
(後編へ続く)