──取材のノウハウなど勉強はどこで?
「『役者の世界から何で我々の世界に来るんだ』という同業者からの冷たい声も聞こえてきましたよ。でも僕はそういう声を聞くと、逆に燃えるんだよね。誰から教えられたわけでもなく、朝から晩までレポーターのことばかり考えていましたね。ある事象を見て、どれくらい喋れるのか。表現力のなさを痛切に感じていました。
例えば人が10メートル歩いたら、30秒その様子を描写してしゃべらなければいけないんだけど、それが全くできない。同じ言葉の羅列で、現場の様子が入り込んでこない。寝る間を惜しんで、暇さえあれば小説を読んで情景描写を勉強したりしましたね」
──レポーターとして自信がなかったとも話していました。
「ここ4~5年ですね、レポーターとして自信を持ったのは。昔は自分でがむしゃらに情報を求めていかなければならない段階で、周りを見る余裕がなかった。どこよりも早く、誰も到達していないところを、そればかり求めていたので、楽しさより達成感だけを求めてましたね。レポーターとして若気の至りというか、過ちで、それに気づくのに時間がかかった。
今はその逆で、どこよりも遅くても取材の対象者に会うことができれば、『今までどこのメディアにも話していない話を自分が聞き出せる』という確信をもっている。自信がある。現場で若いディレクターが、おそらく先輩から僕のことをいろいろ聞いてたんでしょうね。あくせくしていない様子を見て『阿部さんって、こんな人だったの!?』と驚いてますよ。慌てて取材に行くより、周りの様子を俯瞰してみているほうが勉強になる」