佐々木が在籍していた大船渡の監督だった頃とはだいぶ表情が違って見える(筆者撮影)

佐々木が在籍していた大船渡の監督だった頃とはだいぶ表情が違って見える(筆者撮影)

岩手の「球審」の傾向

 さらに岩手で怪物が誕生する理由のひとつとして、國保氏はストライクゾーンの広さを指摘した。

「極めて個人的な印象ですが、岩手の球審は際どいコースでも、ビシッと質の良いボールがいくと、手が上がりやすいような気がします。すると、ピッチャーも気分よく投げられる。岩手の人は速球派を好むし、バッターもストライクゾーンを広げて振らないといけないから積極性が自ずと出る。そうした経験が上のカテゴリーに進んだ時に良い方向に出るのではないでしょうか」

 それにしても、165キロを連発する佐々木のピッチングには余力すら感じられる。速球派として知られた元プロ野球選手で、メジャーリーグも経験した解説者の五十嵐亮太氏は「投げようと思えば170キロを投げられるぐらいの感じで投げている」と賞賛していた。國保氏は言う。

「昔から『200球投げ込んだあとに、力が抜けて質の良いボールがいく』などと言われてきたじゃないですか。僕自身、その通りだと思うんですよ。200球を投げることで、余計な動きが疲れによってそがれて、結果として身体を効率よく使うことができる。もちろん、毎日、200球を投げてから登板することなどできませんが、朗希の場合は、マウンドでの1球目からいわゆるそうした状態を作っている。試合中は必然的に心拍数が上がりますよね。朗希は普段の練習から、走って心拍数を上げてからブルペンに入ったりしている。普段から試合に近い状態で練習しているんだと思う」

 高校卒業から3年と2ヶ月──。今年3月の侍ジャパン宮崎合宿を視察に訪れたロサンゼルス・ドジャースの球団社長は、「ササキのピッチングはメジャーリーグの全球団が注目している」と話していた。

 WBCでも先発として世界一に貢献した佐々木は、オフに高校時代を過ごした大船渡で自主トレを行っている。國保氏は世界への飛躍が期待される教え子の“未来”についてこう話した。

「朗希はプロに入ってから、身長がさらに2センチ伸びたと話していました。まだ骨が伸びているかはわからないですが、まだまだ肉体が成長している実感はあるのではないでしょうか。とにかく、ケガに気をつけて、健康で野球を続けてくれたらそれで十分です」

 國保氏自身が、佐々木朗希を「育てた」などと口にすることは絶対にない。國保氏は指揮官として令和の怪物と呼ばれた逸材の成長を優しく温かく見守った。それが高校時代の佐々木にとって、もっとも必要な「指導」だったのかもしれない。

【了。前編から読む】

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