鳥羽周作氏(本人のTwitterより)
在宅主婦が多く見ている時間帯ゆえ、「一人前〇〇〇円です」と手頃な予算で簡単に作れるメニューが多く、それらを若い主婦向けの料理雑誌に掲載するケースもある。
ディナーはもちろん、ランチでさえも人気レストランになかなか足を運べない子育て中の多忙な主婦らが、人気店のシェフ直伝の一品を夕食に出す……。それはテンションが上がる瞬間に違いない。その想いに応えるかのように、人気シェフら店では絶対に使わないであろう市販の“麵つゆ”や、顆粒の“だしの素”を利用したメニューを考案してくれたものである。
番組からの要望に添ったというわけだ。その背景には、少しでも珍しい調味料を使うと、「うちの近所のスーパーには売っていない」と視聴者の方から舞い込む“クレーム”の存在があった。明らかに高級に見える食器を使うのも厳禁だった。
そんな“環境”の中、自身のポリシーを捨てて“テレビ的”なことに応えてくれる人気シェフの存在は番組側からしたら有難いことだったのだが、シェフたちの本心はどうだったのか、そして“本業”の顧客が離れていきやしないかと心配になったことも多い。
お店よりも番組のパーティーを優先するシェフたち
ただ、こうして“露出”が増えてくると、テレビ出演以外の仕事も舞い込んでくるのである。たとえば駅弁の監修やコンビニエンスストアとのコラボ。それに伴うCM出演だ。それが悪いとは言わないし、そうした“サイドビジネス”をもちながら、自身の店の厨房に毎晩、立ってていたシェフもいる。しかし、“両立”は決して容易いことではなかった。
それで思い出すのは、某タレントが仕切る料理コーナーが回数を重ね、区切りのタイミングに某ホテルで盛大なパーティーが行われたときのことだ。
開催されたのが金曜日の夜だったにもかかわらず、有名店のシェフ10数名が駆け付け、登壇。かなりの時間を割いて、番組メインの女性タレントに祝辞を贈ったのである。
え? お店は? と心配になった。金曜日の夜といえば、かき入れ時に違いない。店にはオーナーシェフとの再会を期待して訪れた得意客も居ただろう。それでも後輩に店を任せて番組のパーティーを優先するのか……。私は“テレビ側”に居る人間でもあるが、もしも当該シェフらの顧客だったら決していい気分にはならなかっただろう。
実はそのとき、登壇していなかった某シェフと後々会話をする機会があった。彼は「声はかけていただきましたが、店を弟子に任せてまで出るというのもおかしな話だと思ったので、メッセージカードを添えて、お祝いのお花だけお届けしました」と。