『腹を空かせた勇者ども』
玲奈は玲奈で、〈お母さんがお父さんとFaceTimeで喧嘩してる〉とメッセージを入れてきた北NYからの編入生〈ミナミ〉の深刻そうな悩みを気遣いつつ、やはり同じ中学の〈ヨリヨリ〉や〈セイラ〉、そして地元の友達グループの間を行ったり来たり。また近所のコンビニで働く中国人留学生〈イーイー〉とはラブドリ話で意気投合。オンラインゲームに誘われたり、勉強嫌いなヨリヨリの相談に乗ったりと、これではお腹も空いて当然だ。
そんな忙しい毎日を過ごす中、久しぶりの大会に向けて筋トレなどハードな練習メニューに励む玲奈を不運が襲う。ママの彼氏がコロナに罹り、ママも陽性なら大会に出られないというのだ。
しかもママは、〈これは私の恋愛のせいじゃない。コロナのせいだよ〉〈私は人の気持ちを鑑みながら、同時に自分の気持ちも両立させていく道を模索し続けてる。その中で、これはアクシデント的に起こった一つの事象でしかない〉と主張。玲奈は〈この人この状況について一回でも謝った?〉と怒りつつ、ろくに反論もできず、ベッドに泣き伏すのだった。
次の世代は過剰な客観性も克服する
「玲奈が住む狭い世界でも事情は様々で、でも本人は意外とお構いなしというか、みんな、いろいろあるけど楽しくも生きてるよねって。そこはフラットに書こうと思いましたし、世間の思い込みやレッテルを彼女達は跳ね飛ばせる子達なので、親の不倫とか差別といった負の要素を逆に入れこんで、無効化させたかったんです。
私も最近の子って屈託がないし、イイ子が多いなあと思っていたんですけど、娘の周りにも結構病んでる子が普通にいたりするし、その屈託を私の頃みたいにサブカル化することもなく、今の状況でどう生きるかをフラットに模索している。コロナに関しても大人より柔軟で、会社とか世間より自分自身の基準で取捨選択していた彼らこそ、最も個人としてコロナ禍と向き合ったんじゃないかと。
確かに玲奈は言葉も拙い。でもその幼さが強さかもしれず、『意外に大人よりわかってるのかな』と感心するんです」
それこそ冒頭の帯文も否定も肯定もなく、言葉そのままに使ったのだと言う。
「別に小説を読まなくても、本人が幸せなら全然いいし、悪いのは恋愛よりコロナだというママの主張も正論ではあって、コロナで人々が正気を失い、いろんなものを叩き始めた時に、それは違う、と言える人が必要だなと思ったんです。世間が血迷っている時こそ、登場人物にまともなことを言わせよう、と(笑)。
本当は正しさって怖いんですけどね。それを斜めに見て穿つはずの小説が今は正論を吐かなきゃいけないくらい、世の中がおかしくなってる感じもします」