やがて14歳の玲奈が高等部に進み、出会いと別れを新しく重ねるまでを全4章に描く著者は、成長の中身ひとつとっても玲奈なら玲奈に託し、決めつけない。
「そもそも大人の定義自体、私が子供の頃とは全然違いますし、これからの大人はこれからの人が作っていけばいいと思います。例えば何を捨て、何を持ち続けるかをアップデートし続け、その選択を洗練させていくのが大人になること、とか。
パリにいた頃、特に女性のやりたいことをやる、という意志の強さを眩しく感じていましたが、結局日本に帰ると人目を気にしてる(笑)。そうした過剰な客観性も次の世代は克服していくでしょうし、玲奈のママみたいに世間の呪縛から解放され、個人として存在する強さを見せていくことも、これからは簡単になっていくと思います」
言葉にならないからこそ支え合う玲奈達も、見守る大人達も、両方が愛おしく、好きにならずにいられない。こんなキラキラした小説も、金原ひとみは書けてしまうのだ。
【プロフィール】
金原ひとみ(かねはら・ひとみ)/1983年東京生まれ。11歳から1年間米国に滞在。その間、小説の魅力に目覚め、2003年『蛇にピアス』ですばる文学賞を受賞しデビュー。翌年同作で芥川賞受賞。2010年『TRIP TRAP』で織田作之助賞、2012年『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、2020年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞、2021年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、2022年『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞を受賞。2012~2018年までパリに滞在。160cm、A型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2023年7月14日号