勝手に撮影が行われたのはテラス席だった(イメージ)
「問題の撮影をしたらしいグループのアカウントを特定し、知人の弁護士に相談、もちろん警察にだって行きました。でも、問える罪はせいぜい不法侵入で、万一受理されてもしっかり捜査されるか、雲行きは相当怪しいものでした。実際やられてみないと、この恐怖はわからないんです」(尾形さん)
まさに降って湧いたようなトラブルではあるが、ネット上では、映像がどこで撮影されたものかなどをおもしろ半分で調べるユーザーが必ず出現するため、その動向によっては何が起きるか分からない。防犯体制が緩いと同業者間で共有され、ゲリラスポットとして違法な撮影部隊が押し寄せる可能性も考えた。今ではネットミームとなっている映像のロケ地に、毎年ネットユーザーが集うようになってしまい、近隣住人が警察を呼ぶ騒動に発展した有名な事例も、尾形さんは知っていた。自宅が晒される、とりわけそれがネガティブなイメージを伴っていた場合の恐怖は計り知れない。
映像が今なおネット上で公開されていることが頭をよぎると、自分の生活が脅かされる不安に常に苛まされるようになった。もちろん、その動画の泣き寝入りは避けたいと考え、マンションの管理組合にこの件を告げたが「黙っていて欲しい」と念押しされ唖然とした。
「住人の多くはこのマンションを購入されているし、敷地内でこんな事が起きているとなれば噂が広まって資産価値が低下するかもしれない。高齢者も多く、むやみに不安にさせるべきではないと。私は賃貸で借りていただけですから出て行けば住むが、住人は逃げられないんです」(尾形さん)
女性客が多いカフェのテラス席で勝手に撮影
関西でも同様のトラブルが起きていた。大阪府内でカフェを営む伊東あゆみさん(仮名・20代)は憤りを隠さない。
「カフェのテラス席で撮影が行われていると、SNSでお客さんからメッセージを頂いたんです。動画を見ましたが、確かにうちの店のテラス席で撮影されていて、周囲のお客さんに見えないように、わいせつな行為までしていました。しかも、同じ男性が、何度も、カップルを装って別の女性を連れてきていたんです」(伊東さん)
女性客が8割だというカフェで、白昼堂々撮影をやられてはたまったものではなく、噂が広まれば客離れは必至だ。例の男が過去に何度やってきたか、防犯カメラ動画を見返すなどして証拠を集めた。当時接客にあたった従業員の証言も揃え、営業妨害であることを訴えたものの、警察や会社の顧問弁護士の反応は冷ややかだった。
「どんな罪に問えるのか難しい、ということでした。また、撮影され販売されていたらしい動画は違法なものだったようで、そんな動画を撮影している人たちですから、反社勢力の可能性だってあると言われました。そうなると、通報で報復されるかもしれないという怖さもありました」(伊東さん)