人手不足の農業と障がい者雇用を「つなぎたい」
「農林水産省の『農福連携技術支援者』の資格講習を10日間くらい、宿泊込みで受けました。農業という仕事を障がい者、福祉事業の方たちにコーディネートしていくことができる資格です。例えば視覚障がい者が仕事を希望したとき、カップに種を植える作業がどうすればできるようになるのか、などを考える農業コンサルタントです。
働きたくてもなかなか働くのが難しい障がい者と、人手不足の農業。ここをつなぎたかったんです。今のままでは何も変わらない。何か手立てを加えて、視野を広げるしかないと毎日毎日考えたり、周囲からアドバイスを受けたりの日々です」
初めての会社経営で、障がい者の雇用支援をしたり、農園で作業させたりすることに不安はなかったのだろうか。
「彼らを営業部に配属させるといったら、無理かもしれません。でもみんな、行動力が高い。ポットに手描きのイラストや文字を入れる作業を300個以上、ずーーっと続けて制作してくれるんです。こうしたことを“ストレングスの視点”といって、その人の強みを伸ばすことを意味します。私も会社経営を始めるときに、できることもできないこともたくさんあった。それでも周囲の手を借りて自分のできることを伸ばしてこられました」
加えて新潟県の農地でも、ゆくゆくはドローンによる作業が導入できないか、ということも視野にいれているという。
冒頭から30分間、彼女の話を聞いているうちに、こちらがやや気圧されてしまった。人手不足で悩む、他業種の経営者たちにもヒントになるのではないか。今のままでは人手不足によって、いつか経営が立ち行かなくなる。倒れる前に、需要と供給のバランスを擦り合わせる。小林には自分がその「パイプ」であるという自覚があり、長く芸能界で仕事をしてきてコミュニケーションには慣れているという自負があるように見えた。
小林涼子が代表取締役を務める、株式会社AGRIKO。社名には「農業はかつて子供が継ぐものだった。でも、今は継ぐことが難しくなっている。ならば私たちが子供となって継いでいこう」という理念が込められている。農業に携わるようになって約10年、起業から2年余り。後編では、起業時の苦労や、周囲から常に聞かれるという結婚観について話していく。【後編に続く】
【プロフィール】
小林涼子(こばやし・りょうこ)/1989年11月8日生まれ、東京都出身。女優、モデル、ラジオDJ、株式会社AGRIKO代表。子役としてキャリアをスタート後、多数のテレビドラマ、舞台、映画に出演。連続ドラマ『魔王』(TBS系・2008年)のヒロイン・咲田しおり役で注目を集める。現在は女優業の傍ら、SDGsと人手不足に着目した農業経営も手がける。休みゼロ、深夜からジムでトレーニングするというタフな一面も。
◆取材・文/小林久乃(コラムニスト)