大谷より球種が豊富なダルビッシュ有(パドレス)だが、リリースの位置は大谷よりも一定の箇所に集まっている。力で打者をねじ伏せようとする大谷に対し、「あらゆる球種を駆使して打者の裏をかくのがダルビッシュ投手」(五十嵐氏)。神事氏も「直球の質に関しては大谷投手より100回転ほど多く、ボール1個分ぐらい大谷投手より伸びている良質のボール。スイーパーも直球に近いリリース位置から投げていて打者が判別しにくい」と語る(提供/NEXT BASE 。数値は前半戦最終登板7月8日時点 )
ダルビッシュ有(写真/AFLO)
復活の鍵となるのは「第3の球種」
こうした分析に「僕はナックルカーブだけでした」と笑うのは東京ヤクルトやメジャーでも活躍した五十嵐亮太氏だ。解説者として、五十嵐氏は今季の投手・大谷をこう評価した。
「球種が豊富とはいえ、その日の状態によって自分の投げたいボールを投げ、力で打者を抑え込みたいタイプ。打つほうではMVP級の活躍が続きますが、投げるほうでは5月に入って、左打者には外から入ってくるボールを狙い打ちされ、右打者にも抜けたボールをとらえられている」
図が示すのは、大谷が上下左右、全方位への変化球を操っていることだ。スイーパーは最も変化量が大きく、投手方向から見て左側へ曲がることを表わす。2023年2月に肘の手術をしたばかりという五十嵐氏がスイーパーに挑戦するも、解析した変化量はスプリットやカットボールの位置にとどまり、スイーパーのような左側への大きな変化量は出なかった(提供/NEXT BASE。数値は前半戦最終登板7月5日時点)
オールスターを前に、打者として32本もの本塁打を積み重ねた一方で、投手としては6月に入ってやや失速し、前半に比べてスイーパーよりも直球やカットボールの割合を増やしている。後半戦に入っても爪の負傷が長引き本調子にはほど遠いが、復活の鍵となるのは直球とスイーパーに続く第3の球種だという。
「大谷投手のスイーパーは確かに魔球ですが、打者の研究と対応が進み、それだけ投げていれば抑えられるという状況にはない。スプリットや縦のカットボールが増えてくれば投球の幅が広がります」(神事氏)
五十嵐氏が引退した2020年オフから、わずか2年半の間に動作解析技術は著しく進歩した。
「もし僕の現役時代にここに来ていたら、もう数年は現役を続けられたかもしれないですし、スイーパーを体得できれば、今からでも現役復帰を考えたい!」