「魅力的な大人たちですよね。実際に取材した先生方も子供を子供扱いせず、信じて任せるからこそ、信頼されている方が多かったんです。
あと、理科の成績は悪いけど天文の活動が好きという生徒さんも多く、私たちは学校の勉強や将来に役立つのかという考え方に縛られがちだけど、学びってそんな狭い範囲のことではないんだと思いました。コロナ禍は、不要不急という言葉に代表されるそうした〈圧〉がより強かった時期。だけど、単に好きとか面白いとか、一見役に立たないように見えるものが長く自分を支えてくれることって実は多いと思うんです」
作中の〈『好き』や興味、好奇心は手放さず、それらと一緒に大人になっていってください〉という言葉を辻村氏は好きを仕事にした今こそ伝えたかったといい、この夏の星を見た彼や彼女の大人も子供もない輝きは、コロナ禍の一言では括れない時代の記録として未来の誰かをも励ますことだろう。〈そっか。コロナも悪いことばっかりじゃなかね〉と円華の母が言うように。
【プロフィール】
辻村深月(つじむら・みづき)/1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞。2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞。2018年『かがみの孤城』で本屋大賞第1位。著書は他に『凍りのくじら』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『島はぼくらと』『ハケンアニメ!』『朝が来る』『東京會舘とわたし』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『嘘つきジェンガ』等。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2023年8月4日号