「これまでの自分にはなかった“悪い男”を歌うのは新たな境地でした」(林部)
そして気がつけばデビューから早7年。新曲「La Rouge」はいままでの彼の引き出しになかったタイプの歌だ。作詞をしたのは松井五郎。“虹”にちなんで7色それぞれをイメージした新曲を発表していくことが決まり、まずは「赤色」を意味する同曲が生まれた。赤は林部にとってもっとも遠い色らしい。
「僕は情熱的な人間ではないですし、何かに燃え上がるようなタイプでもない」
と語るが、これを聞いて納得。物悲しさを感じさせる彼の歌声だけでなく、冷静に物事を俯瞰しようとする林部本人の印象としても、青などのクールな寒色系のほうがしっくりくる。パーソナルカラーも青らしい。
しかしだからこそ、この印象を逆手に取った松井が、普段の林部が口にしないであろう言葉を綴り、これまでのイメージを裏切るような“悪い男像”が生まれた。林部にとって新境地だ。
そんな林部は今後を見据えたときに、7周年を迎えた自身の現在地をどのように捉えているのだろうか。
人と関わり合いたいと願う林部にとって、歌は他者とつながるコミュニケーションの方法なのだという。そのために彼は、社会の“流行”や“普通”とされているものに積極的に触れようとする。
これはライターである筆者もまったく同じで、世の中のことを知らなければ表現も情報発信もできはしない。たとえば、幼少期にやれなかったゲームを大人になったいま始めたり、トレンディドラマを後追いで観たり。こうして広く共有されている多くのカルチャーに触れることが、他者とのコミュニケーションの可能性を拡張させるのだ。
人々に“寄り添う”ことをテーマとする林部は「普通でいたい」と語る。自身で作詞をする際には、一人でも多くの者が受け入れられる普遍性を意識しているという。
アーティストにはソリッドな部分が必要なのだろうが、それでも林部智史という人間は「普通を目指していきたい」と口にする。丁寧に言葉を選ぶが、そこには迷いが感じられない。果たしてこれからの彼はどんな虹を描いていくのだろうか。
「普通を目指していきたい」という林部。その思いがあるから他者に寄り添える。
文・折田侑駿、撮影・横田紋子