偶然、結がガラスにチョークで虹を書こうとしたことがきっかけでガラスや窓に書ける新製品のチョークを開発しようという話になる。知的障害をもつ従業員たちが残業代ゼロでも環境に優しい新製品をつくりたいと社長に直談判する場面では「障害者をナメないでください!」と叫ぶ言葉が感動的だ。

 そうした脚本はいたるところに知的障害者の「リアルさ」が詰まっていた。執筆したのは松田裕子さん。24時間ドラマは3本目になるベテラン脚本家で、2021年には日本テレビ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール』というヒロインの視覚障害者を杉咲花が演じたコメディタッチの恋愛ドラマが評判になった。ところどころで視覚障害者について理解を深める小ネタが挿入されたりと、よく工夫されたドラマで楽しみながら視聴覚障害者の現状を知ることができた。

 障害について書き慣れた脚本家だからこそ、今回も知的障害者のディテールを丁寧に書くことができたのだろう。

当事者が違和感ない「リアル」追求の機運を生んだ「感動ポルノ」批判

 スペシャルドラマ『虹のチョーク』では「障害者をナメないでください」というセリフがモチーフになっているが、テレビというメディアも長いこと障害者を「ナメて」いたのかもしれない。そのことを広く周知したのが、2016年のNHK-Eテレの『バリバラ みんなのためのバリアフリー・バラエティー』だった。

 日本テレビが『24時間テレビ』を放送したその裏番組の30分の生放送でパロディー番組「笑いは地球を救う 検証『障害者×感動』の方程式」を放送したのだ。その中でオーストリア人のステラ・ヤングという難病の女性ジャーナリストが提唱した“感動ポルノ”という言葉をキーワードにした再現VTRを放送して話題になった。“感動ポルノ”には明確な定義はないものの、研究者からは「健常者を感動させ、消費させることを目的につくられた、メディア上での障害者の偏った描き方を批判するための言葉」などとされている。

『バリバラ』には、実際にこの年の日テレ『24時間テレビ』で「難病という大変な状況の中で困難を乗り越えようと健気に生きる女性の感動的なドキュメンタリー」を放送された難病の女性が出演した。彼女がテレビの取材を受ける様子を再現VTRで本人の取材時の「本音」を証言させて皮肉まじりに伝えたのだ。

『バリバラ』では“感動ポルノ”には(1)大変な日常(2)過去の栄光(3)悲劇(4)仲間の支え(5)いつでもポジティブ、という5つの要素があるとして、この難病女性で実際に検証する再現VTRを放送した。取材する側が「そこは、“大変な感じ”でいきましょう」などと本人が違和感を抱いても強引に指示する場面などをやや誇張して再現していた。

 ちなみに『バリバラ』は翌年以降も『24時間テレビ』の裏でパロディー「2.4時間テレビ」などを生放送し、障害者を「健常者の視線でひとつの枠に当てはめてしまいがちなテレビ」に対して警鐘を鳴らした。

 こうした『バリバラ』の「感動ポルノ」批判以降、日テレの『24時間テレビ』だけでなく、ドキュメンタリーやドラマなどのテレビ番組において、当事者が違和感がない「リアル」をきちんと放送しようとする機運が出てきた。実際にあった話に基づくわけではないフィクションのドラマでも、障害や難病などを扱う場合にはそうした当事者団体の関係者や専門家などが「監修」する姿勢も強くなっていった。

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