(時事通信フォト)

チョーク工場で働く障害者・佐倉結を好演(時事通信フォト)

「リアル」が伝わる24時間テレビ『虹色のチョーク』

 知的障害と発達障害は区別が難しく、重なる部分も多いとされるが、自閉症スペトラムは発達障害に分類されている。発達障害の子どもは全体では近年増えていて、文科省の調査では小中生の8.8%が該当する可能性があるというデータがある。11人中1人の子どもと割合が多い一方で具体的にどんな障害なのかはこれまでテレビであまり紹介されていなかった。それゆえにテレビドラマの題材として取り上げたいというニーズがあるのかもしれない。

“障害者”と“テレビ”という関係では、誰もが頭に浮かべるのが毎年夏場に放送される日本テレビ系列の「24時間テレビ 愛は地球を救う」だろう。今回で46回目を数えた2023年8月末の同番組では恒例のスペシャルドラマで『虹色のチョーク 知的障がい者と歩んだ町工場のキセキ』(注・タイトルの「障がい者」はママ)では、芳根京子演じるヒロイン佐倉結が知的障害者という設定だった。

 従業員の半数以上が知的障害者という神奈川県に実在するチョークの町工場の実話がベースで、結たち知的障害を抱える従業員が町工場の危機を救うために新しいチョークを開発したエピソードをドラマにした。原作はノンフィション作家の小松成美さんの『虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡』(幻冬舎文庫)だ。きちんと取材したノンフィクションが土台になっていることを随所に感じさせ、「リアル」が伝わってきた。

 実際の工場で本物の従業員が登場して撮影されたというが、ドラマの細部でもリアルが丁寧に追求されていた。主演の芳根京子は演技派の若手として1、2を争う俳優だが、他人と話す時に視線を合わせないようにする自閉症特有の演技が絶妙だった。知的障害を抱えて働く人たちを長時間にわたって観察したことをうかがわせ、他の俳優たちもリアルな芝居を見せていた。

 倒産寸前の零細企業に「社長の息子」として就職した道枝駿佑(なにわ男子)演じる大森広翔の目を通し、知的障害者が働くことの意味を考えさせてくれるドラマになっていた。広翔には当初どの人が障害をもつ人なのか、さっぱりわからない。そこで一人ひとり、直接聞いて回る。健常者だと思った人が「僕は知的障害者なんです」などと言うので、戸惑ってしまう。だが、こだわりの強い結たち知的障害者たちの現状を次第に理解するようになる。

 結は広翔とレストランに入っても注文するメニューをなかなか決められない。15分経っても、30分経っても、決められない。「あと30分でランチは終わりなんです」。怒った店員が水が入ったコップを乱暴にテーブルに置く。その時の結は脅えた表情になってつぶやく。「だいじょうぶろ…」。かつて祖母が言い聞かせていた言葉をまるで呪文のように繰り返すのだった。

 広翔は知的障害者がどうすれば仕事をうまくやれるかアイデアを出して職場で存在感を発揮するようになる。彼が知的障害者も「働くことで認められるのは喜びになる」「働くことが社会につながって生きがいになる」ということに気がついた頃、町工場は経営の支えになっていた下請け業務を打ち切られてしまう。結たち従業員にも不安が募ってストレスのあまり作業中に大暴れしてしまう。こうした精神的な脆さや困難さもリアルにきちんと描写している。

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