「介護」も利用者の立場だけでなく労働者の立場も考えるべき(イメージ)

「介護」も利用者の立場だけでなく労働者の立場も考えるべき(イメージ)

 激務、責任重大、稼げない、そう言われても無理もない。これまでも「福祉職は立派な仕事」「やりがいのある、人のために尽くせる仕事」とされてきたが、その崇高な理念がある意味、都合のいい使われ方、あえて強い言い方をするなら「悪用」されてきた部分はあると思う。

「私も反省する部分はあるのですが、古い介護職は素晴らしい仕事なんだ、プロフェッショナルなんだと他人に強いる癖が染みついていたように思うのです。自分たちもそうしてきたから『そうしろ』、と。お金じゃないとか、利用者の立場がすべてとか。違いますよね。プロフェッショナルなんだからお金だし、労働者の立場も考えるべきですよね。でも、これは訪問介護に限った話でなく介護職全体の問題ですが、私たちも反省すべき点はあるとして、このような福祉政策で崩壊寸前まで追い込んだ国はどうなんだ、とも思います」

 国は施設介護でなく在宅介護を進めてきた。厚生労働省は2012年の『在宅医療・介護の推進について』において、〈できる限り、住み慣れた地域で必要な医療・介護サービスを受けつつ、安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指す〉としている。またその理由として〈国民の60%以上が自宅での療養を望んでいる〉〈要介護状態になっても、自宅や子供・親族の家での介護を希望する人が4割を超えた〉ともしている。

 10年前の古い資料だが、そこにはこうも書かれている。

〈多くの国民が自宅等住み慣れた環境での療養を望んでいる。また、超高齢社会を迎え、医療機関や介護保険施設等の受入れにも限界が生じることが予測される。こうした中、在宅医療・介護を推進することにより、療養のあり方についての国民の希望に応えつつ、地域において慢性期・回復期の患者や要介護高齢者の療養の場を確保することが期待されている〉

 本当にそうだったのだろうか。この欄の最後は「2025年に向けた在宅医療・介護」としてプロジェクトチームの設置で締められている。2025年まであと2年、というか2012年の段階で、これほどの事態になることを予想できていたのだろうか。

「そこに現場の声なんかありませんよね。地域包括ケアシステムとか、そこで働く人たちのことなんか全然考えてませんよね。利用者もかわいそうです。いまから思えば、全部押しつけてるだけですよね」

 理想とは裏腹に、この国の訪問介護事業は限界を通り越して崩壊の途にある。老後は多額の資産かコネ、そして運が良くなければ施設にも入れない、自宅にホームヘルパーも来ない老後が迫っている。国が頼みとする外国人ヘルパーも不足の数にはまったく足りないままにある。

 この国の失われた30年で繰り返された「どうせ誰かがやるだろう」「代わりはいくらでもいる」という悪癖、あらゆる公共サービスやエッセンシャルワークが崩壊しつつある中で、訪問介護事業もまた「ホームヘルパーが派遣されない」「誰も訪問介護に来てくれない」が現実になろうとしている。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経て、社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

 

関連キーワード

関連記事

トピックス

氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
”うめつば”の愛称で親しまれた梅田直樹さん(41)と益若つばささん(38)
《益若つばさの元夫・梅田直樹の今》恋人とは「お別れしました」本人が語った新生活と「元妻との関係」
NEWSポストセブン
パリ五輪への出場意思を明言した大坂なおみ(時事通信フォト)
【パリ五輪出場に意欲】産休ブランクから復帰の大坂なおみ、米国での「有給育休制度の導入」を訴える活動で幼子を持つ親の希望に
週刊ポスト
1988年に日本テレビに入社した関谷亜矢子アナ(左)、1999年入社の河合彩アナ
元日テレ・関谷亜矢子さん&河合彩さんが振り返る新人アナウンサー時代 「“いつか見返す”と落書きを書いて成長を誓った」「カメラマンに『下手くそ!』と言われ…」
週刊ポスト
被害男性は生前、社長と揉めていたという
【青森県七戸町死体遺棄事件】近隣住民が見ていた被害者男性が乗る“トラックの謎” 逮捕の社長は「赤いチェイサーに日本刀」
NEWSポストセブン
体調を見極めながらの公務へのお出ましだという(4月、東京・清瀬市。写真/JMPA)
体調不調が長引く紀子さま、宮内庁病院は「1500万円分の薬」を購入 “皇室のかかりつけ医”に炎症性腸疾患のスペシャリストが着任
女性セブン
学習院初等科時代から山本さん(右)と共にチェロを演奏され来た(写真は2017年4月、東京・豊島区。写真/JMPA)
愛子さま、早逝の親友チェリストの「追悼コンサート」をご鑑賞 ステージには木村拓哉の長女Cocomiの姿
女性セブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
「ホテルやネカフェを転々」NHK・林田理沙アナ、一般男性と離婚していた「局内でも心配の声あがる」
NEWSポストセブン