芸能

檀ふみが振り返る『男はつらいよ』「憎めなくてチャーミングな寅さんは懐の深い渥美さんだから表現できた」

『男はつらいよ』

檀ふみが『男はつらいよ』出演時を振り返る

「寅さんと 恋をするけど 結ばれない」──渥美清さんが逝去して27年、いまなおDVDシリーズが売れるほど、時を超えて愛される『男はつらいよ』。シリーズ第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(1989年)でマドンナの叔母・寿子を演じた檀ふみが、撮影秘話を語る。

『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(1989年・第42作)
監督:山田洋次

【あらすじ】
 浪人生の満男(吉岡秀隆)は勉強に身が入らない中、恋心を募らせている後輩の泉(後藤久美子)に一目会いたいと、佐賀までバイクを走らせる。偶然再会した寅さんと二人で訪ね、泉を引き取った美しい叔母・寿子から歓待を受けるが、厳格な教育者の叔父から辛辣な言葉をかけられてしまう。そんな叔父に寅さんは「満男をほめてやりたい」と意見する。

 * * *
 じつは最初にマドンナの叔母役と聞き、当時はまだ「叔母さん」という響きがイヤで(笑い)、結構グズグズ言っていたんです。そうしたら、マネージャーから「若い叔母さんって強調しておきます!」と説得されまして、出演を決めました。ただ、第42作は吉岡秀隆さんと後藤久美子さんが演じる満男と泉の物語が主軸だったので、寿子はあまり登場シーンが多くなく、柴又でのシーンもなかったせいか、正直あまり印象に残っていないんです。

 逆に、最初に出演した第18作『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』では貴重な出会いや体験が多く、たくさんの思い出があります。高校生の時、英文でラブレターを書く課題で寅さんに宛てて書いたぐらいでしたから、出演が決まったときは舞い上がりましたね。また、山田監督は出演者の私生活を参考にして脚本を書かれることもあるそうで、私はちょうど父を亡くしたばかりでしたから、京マチ子さん演じる母を亡くす雅子に、とても共感しました。

 山田監督は人間をよくご覧になっていて、「悲しくてたまらないとき人はフッと微笑んだりもするんだよね」とか、「意味もなく生垣の葉っぱに触ったりするよね」といった具合に、人がどんなときにどう動いて、どう感じるかを丁寧に汲み取り、上手に状況づくりをしてくださったので、寿子役も雅子役も無理なく役に入ることができました。

 また、山田組はみんなの息がぴったりで、渥美さんのアドリブにスタッフから笑い声がもれるような、和やかな現場でしたから、参加してその雰囲気を味わえたことは、俳優人生において本当に光栄で、充足感もあります。

 ただ、歌子役の吉永小百合さんやリリー役の浅丘ルリ子さんのように複数回登場したマドンナたちは、キャラクターが深掘りされて羨ましかったですし、私もできることなら雅子として再登場したかった、という思いもあります。

『男はつらいよ』でやはり一番面白いのは、寅さんがマドンナに恋をして舞い上がり、ポーッとなっているところだと思うんですが、雅子から見た寅さんは、母に当たり前の慰めの言葉をかけるのではなく、心から心配して寄り添いながらも笑わせてくれたいわば恩人です。一方、古い価値観の夫に嫁いだ寿子から見た寅さんは、ちょっと世間からはズレていますが、枠に囚われない自由人というところに憧れがあるんでしょう。

 実際にいたら困ってしまうけれど(笑い)、どこか憎めなくてチャーミングな寅さんというキャラクターは、懐の深い渥美さんだから表現できたのだと改めて感じます。渥美さんとは第18作のときにいろいろお話しできたのですが、ミニシアター系の映画から小劇場の舞台まで、なんでもよくご覧になっていましたし、普段はとても静かなのに芝居をすると弾ける姿を見て、本当に尊敬していました。

 当たり役があることは非常に役者として幸せなことですが、あれだけの名優でいらしたことを思うと、寅さん以外にもっと当たり役があってもよかったのに、とつい思ってしまうんです。

【プロフィール】
檀ふみ(だん・ふみ)/映画『山桜』『春を背負って』『轢き逃げ 最高の最悪な日』、ドラマ『日本の面影』『藏』『花燃ゆ』など数多く出演。エッセイ本『ああ言えばこう食う』(阿川佐和子との共著)は第15回講談社エッセイ賞を受賞。

取材・文/秋月美和

※女性セブン2023年10月26日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン