「みんなの関心が高く、今すぐ知りたいと感じているものをドンとやるというジャーナリズムとしての価値が、この作品にはある」と、石井氏

『「神様」のいる家で育ちました ~宗教2世な私たち~』に対し石井氏は「みんなの関心が高く、今すぐ知りたいと感じているものをドンとやるというジャーナリズムとしての価値が、この作品にはある」と評する

現実をどう解釈するかは読者に委ねられている

 こうした手法は、様々なテーマで応用できると思います。たとえば、今問題が噴出している芸能界の性加害の問題を様々な視点から取り上げて、芸能という世界の構造に迫ることもできるかもしれません。そういう意味で、『女の子がいる場所は』(やまじえびね/KADOKAWA刊)にも同様の手法の強みを感じました。

 この作品は、インドやアフガニスタン、日本といった国も宗教も文化も違う世界各地の国々の少女たちが直面している現実を1話ずつ描いた連作になりますが、作中でとくに印象に残ったのは、モロッコを舞台に「女は勉強なんてしなくていい」と女性蔑視発言を繰り返すおばあさんが登場するエピソードです。

──女性である、おばあさんが蔑視発言をするんですね?

 そうなんです。それに対して主人公は反発するわけですが、おばあさんの過去を知っていくうちに、そう思わなければ生きられなかったおばあさんの辛い人生を知り、苦しい気持ちになり……そこで話が唐突に終わります。

 そこから物語が続くかと思いきや、結論を描いてないんですね。そこで生きる人たちの思いを描き、そういうことが起きている現実をどう解釈するかは読者に委ねられているわけです。

 そのようにして描かれた1編ずつを通して読んでいくと、ストレートに「女性は不利である。世界は男尊女卑だ」という批判ではなく、そうした社会の中で、今も少女たちが生きている、あるいは立ちすくむ姿が浮かび上がってきます。社会問題の構造そのものが持つ、普遍的な問題が読者に見えてくる作品の作り方が、素晴らしいと思いました。

 アプローチは違いますが、人間が抱える普遍的な問題に迫るという点で心を動かされた作品として挙げたいのが、『絶滅動物物語』(著:うすくらふみ 監修:今泉忠明/小学館刊)です。いわゆる理系的なテーマを扱っているのですが、深い奥行きを感じさせてくれます。

──タイトル通り、絶滅動物たちがいくつも出てきますね。

 ええ。なぜ動物たちは絶滅してしまったのか、という知的好奇心をくすぐられながら、ミステリーのように読み進めていくと、最後に人間がいつの時代も変わらずに持つ普遍的な欲望が浮き彫りにされていきます。

 絶滅した動物を描きながらも、描いているのは人間そのものなんですね。インパクトがありますし、斬新な作品だと思いました。こうしたテーマを扱うことは、昔は小説に求められていたところがあるのかもしれませんが、今の時代、それを漫画に求めている方がたくさんいるのだと思います。

 また、理系的なテーマは、読者の関心も高くて、今後も多種多様な作品を生み出せる可能性を秘めていると感じました。たとえば、温暖化、マイクロプラスチックといった環境問題やSDGsについて取り扱うことで、新たなドキュメントコミックが成立するのではないでしょうか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)
万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
事業仕分けで蓮舫行政刷新担当大臣(当時)と親しげに会話する玉木氏(2010年10月撮影:小川裕夫)
《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
米利休氏とじいちゃん(米利休氏が立ち上げたブランド「利休宝園」サイトより)
「続ければ続けるほど赤字」とわかっていても“1998年生まれ東大卒”が“じいちゃんの赤字米農家”を継いだワケ《深刻な後継者不足問題》
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン