目には見えない現実社会の構造を明らかにする意義
──さまざまな作品を読んでみて、ドキュメントコミックについて石井さんはどのように考えるようになりましたか?
ドキュメントコミックというのは、「作品を通して現実を伝えよう」という作り手の意識があるかないかが、とても大事な肝なんだと思いました。
そして、目には見えない現実社会の構造を明らかにしてくれて、「そうだったのか!」という驚きや気づき、魂が震えるような深い感動を呼び起こしてくれる作品が、ドキュメントコミックと呼べるのではないでしょうか。
──最後に、この記事を読んでいる方に一言お願いします。
ドキュメントコミックもそうですが、現実を題材にしたノンフィクション作品を読もうとする動機には2つあって、探究心を持って心に余裕がある人が読むケースと、当事者自身が読むケースがあると感じています。
当事者が読む場合、自分の置かれた状況、立ち位置を俯瞰的に見ることで、社会の構造の中でどのあたりに自分がいるのかが分かって、当事者の心を癒やしてくれることがあります。こういった点でも、社会の構造を明らかにする作品を生み出すことは、非常に意義があることだと考えています。
芸術の秋ですし、この機会にドキュメントコミックに触れてみて、自分だったらどんな作品を描けるだろうかと考えてみるのも良いかもしれません。私が挙げた5作品以外にも、たくさんの素晴らしい作品がありますから、是非いろんなドキュメントコミックを読んでみてほしいと思います。
【プロフィール】
石井光太(いしい・こうた)/ノンフィクション作家。1977年生まれ。2005年、『物乞う仏陀』でデビュー後、国内外の文化や歴史、事件、貧困・虐待、教育問題など、様々なテーマで精力的に取材・執筆を行う。『遺体-震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』など著書多数。新設された「ドキュメントコミック大賞」の審査員をつとめる。
【ドキュメントコミック大賞とは】
人生を変えたオンリーワンの体験や皆が知るあの職業の内幕、誰もまだ知らない常識を覆す事実など…想像を超えた「現実」を募集している漫画賞。漫画形式、原作形式(文章)、どちらの形でも応募が可能。今回の記事で登場した石井氏のほか、漫画家・押見修造氏、「街録Ch」ディレクター・三谷三四郎氏の3名が審査員をつとめる。応募〆切は2024年1月10日。詳細はホームページ(https://bigcomicbros.net/80087/)まで。