一体どんな展示になるのか、業田氏本人に話を聞いた。
「初めての原画展開催にあたり、これまで描いた生原稿から1枚ずつ手に取って展示作品を選びました。原稿をそんなふうにじっくり見たのは、描いた時以来かもしれません。絵的に見応えのあるものを、シーンの内容が伝わるよう数ページ連続で展示するようにしています。
個人的に思い入れのある作品ばかりですが、『自虐の詩』などの原稿を見返した時は、描いた自分もグッときて、目頭が熱くなりました。原稿を見ると、描いた時の熱い気持ちを思い出します。
『自虐の詩』の幸江さんや『男の操』の万田さんなどは、今も街のどこかで実際に生きているような感じを覚えるから不思議です。描いている自分自身がそれだけ感情移入した感覚が残っているのだと実感しています。『自虐の詩』が増刷されてお金が口座に振り込まれると、幸江さんが働いて仕送りをしてくれたような気分になります(笑)」
雑誌や単行本で読み、登場人物たちの生き様や言葉に心を揺さぶられた経験を持つ往年のファンも、間近で生原稿を目にすれば、業田氏の“感覚”を追体験できるだろう。
今回の原画展のもう一つの見どころといえるのが、漫画で使われた名台詞を描き下ろしのカラーイラストに添えた“絵言葉”の展示だ。
「自分が書いてきたモノローグの中から好きな言葉を選び、それに合うシーンや絵柄、構図をカラーのイラストで描いて、全10枚の“絵言葉”にしました。『詩人ケン』や『百人物語』などのように、漫画で詩的な言葉を表現するのが好きでしたので、これは以前からやりたかったことです。
漫画の連載でカラー原稿を描く機会は少ないですが、僕自身、絵に色を塗るのはペン入れよりも好きで楽しい作業。『ガラガラポン!日本政治』などいくつかの雑誌で連載してきた政治風刺4コマはカラーが多かったので、そこでずいぶん鍛えられて彩色が上手くなったと自分では思っています」