舞台の小道具である第5福竜丸の「大漁旗」が印象的だ
描きたいことが次から次へと……
舞台の後、演出の坂手さんや劇団関係者らと反省会を催した。沖縄料理店で泡盛の杯を重ねながら坂手さんはこう語った。
「何とかもう少し短くしたかったんだけど、俊鶻丸のことを知ってしまったから……どうしても入れたい要素が次から次に湧いてきて収まらなくなっちゃったんですよ。私も知らなかったこと、皆さんに伝えたいことが山ほどあって。第五福竜丸は過去の話じゃないってことを知ってほしいんです」
第五福竜丸は現在、東京・江東区の「夢の島公園」にある。ごみ処分場だった夢の島の岸で廃船となって朽ち果てようとしていることが報道され、保存運動が広まって陸上で修復が行なわれ東京都が引き取った。だから今でも実物を「都立第五福竜丸展示館」で見ることができる。
そこには実物以外に小さな模型もある。第五福竜丸の乗組員だった故・大石又七さんが、目の見えない方のため、船の形や細かい部分を実際に手で触れて確認できるように自ら作ったという。小さな操舵室の中には小さな舵輪も再現されている。それは実際に回すことができる。舵輪がなければ船は進行方向を定めることができない。この“舵輪”も劇で重要な役割を果たす。
映画『ゴジラ-1.0』を観た人にとっては、きっと新たな発見があるだろう。ゴジラが被曝の恐ろしさの象徴として生み出されたこと、原発事故と福竜丸事件の共通点も実感できるはずだ。東京での公演を終えると、名古屋、静岡、大阪など全国で予定されているという。一見の価値ありだ。
◆取材・文/相澤冬樹