さて、先述した性ホルモンの変化には「男女差」があります。
女性が更年期を終えると(たいていは50代の半ばまでに)、女性ホルモンが減る一方で、男性ホルモンがむしろ増えます。男女ともに前頭葉が縮むので意欲などは減退しますが、妻(女性)の場合、男性ホルモンの分泌が増えるおかげで50代以降も意欲が保たれるわけです。趣味や人付き合いにも積極的になり、知的好奇心も増すことがあるでしょう。娘と一緒に若い男性アイドルや韓流の追っかけを楽しむケースがあるように、異性に対する関心が増す場合もあります。
一方、男性ホルモンの分泌が減るうえに、前頭葉が縮んで「感情の老化」も進む夫(男性)はどうでしょうか。意欲も好奇心も低下すれば、妻から旅行やちょっとした外出に誘われても気が乗らないのは理解できますし、人付き合いにも消極さが目立つようになるでしょう。
より活動的になり、人間関係も含めて新しい世界を開拓しようとする妻と、放っておけば元気がなくなる一方の夫の間に溝ができてしまうのは、ある意味では当然のこと。
もし、定年を前にした58歳前後の男性が「妻についていけない」と思い悩むようなら、「夫婦なんだから一緒に行動しなければ」という思い込みをお互いにまず捨てることをお勧めします。
定年後に自宅で過ごす場合でも、1日3食を同じテーブルで向かい合って食べる必要はないでしょう。例えば昼食はそれぞれが好きなものを好きなところで食べればいい。妻が旅行に行きたがれば、親しい友人との旅行を勧めるなどして、夫はいちいち干渉しないほうが、お互いにとって無理のない生活と言えないでしょうか。
何をしても妻に怒られる
思秋期を迎えた夫婦の間に溝ができてくると、妻の側にストレスが溜まって病気として発症することがあります。タレントの上沼恵美子さんが夫の定年退職を機に患ったことで有名な「夫源病」は、感情の老化や男性ホルモンの減少により意欲などが低下した夫の言動など、夫によるストレスが原因で引き起こされる、妻の心身の様々な不調のことです。
若い頃は外で働く夫が偉そうに振る舞い、家で妻に怒ったりしていても、歳を取って弱気になると、立場が逆転することがあります。「奥さんに捨てられたくない」と思う夫も増えるでしょう。
一方、妻が特に専業主婦の場合、それまでは「ひとりでは食べていくことができないから」と我慢してきただけのケースも多い。夫源病のなかには、歳を重ねて弱気になり、何かと不安がるようになった夫が妻を束縛し、愚痴ばかり聞かせるなどした結果、本音では「夫から解放されたい」と考える妻が調子を崩すケースが多いのではないかと私はみています。